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循環型社会

最終更新日:2022年8月24日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/中川聡子

近所で気軽に始められるレンタル菜園。
徒歩圏内の暮らしを充実させたいと思いました。

おさんぽ畑  代表

角野 史和 さん

2022年4月より長田区の空き地を活用し「徒歩圏内の暮らしをより充実させること」を目的に、気軽に楽しめるレンタル菜園「おさんぽ畑」を開始。空き家・空き地の再生や建築設計、住民主体のまちづくり支援にも携わる。

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-おさんぽ畑の活動について教えてください。

長田区駒ヶ林の空き地を活用したレンタル菜園です。「徒歩圏内の充実した暮らしをつくりたい」という想いで2022年4月に始めました。1区画は1畳ほどの大きさで、16区画のうち、12区画は一般の方に貸し、残りの4区画は、障害者支援の事業者さん、近所の保育園に無料で貸しています。誰でも気軽に始められるように、1カ月単位で利用できます。

-どんな人が畑を借りていますか。

年齢層でいえば全年代います。保育園の園児から、高齢の夫婦まで。社会人サークルで借りている方や、おじいちゃんとお孫さんといった子育て世代もいます。おさんぽ畑の近所に住んでいる方がほとんどです。借りている目的は「健康のため」「子どもと一緒に土いじりがしたい」「近所で楽しみがほしい」など、さまざまですね。

-利用者さんはどのように集まったのですか。

インスタグラムで募集をかけるとすぐに半分の枠が埋まり、その後近所にチラシを配ったら翌日には枠が全部埋まりました。募集する前はどれだけの反応があるか不安だったのですが、予想以上の反響に驚きました。利用者さんにおさんぽ畑を選んだ理由を聞くと、「家からすごく近いから」「区画のサイズがちょうどいい。このサイズを求めていました!」という声がありました。

-無人販売所と芝生広場もありますね。

無人販売所は、ここで育てた野菜が食べきれないくらい採れたら販売してもらおうと考えて作りました。ただ、1区画がコンパクトなので、野菜が余ることがほとんどないようです。そこで、地域の方からイベントで小物を販売する棚として活用したいと声があり、面白そうなのでトライしてみました。なかなかいい感じです。他には、おさんぽ畑の近くに、同じく空き地を活用した畑「多文化共生ガーデン」があるのですが、そこで採れたパクチーなどの野菜を売ってもらおうと計画中です。芝生広場は、親子で畑を利用する場合を想定し、親御さんが畑作業中に子どもが遊べるスペースとしてつくりました。イベントでも使えるので、いつかここで焼き野菜を販売しようかなと考えています。

-どの区画の野菜も、とても生き生き育っています。何か秘密があるのでしょうか。

実は、おさんぽ畑からすぐ近くにあるホームセンター「アグロガーデン神戸駒ヶ林店」と連携していて、土づくりから指導してもらっています。畑を借りている人はほとんどが初心者なので、アグロガーデンの園芸スタッフの協力で、野菜の育て方講座を開きました。講座の後もスタッフの方が定期的に畑に来て、アドバイスしてくれています。アグロガーデンへ「〇〇さんいますか?」と相談しに行く利用者さんもいるそうです。

(ちょうどそこに、アグロガーデン神戸駒ヶ林店  西村さん 勝浦さんが登場)

(西村さん:後列左から2番目、勝浦さん:前列左端)

-アグロガーデンさんは、おさんぽ畑の取り組みをどう感じていますか。

西村さん
アグロガーデンは一般のお客さんが多く、ガーデンの商品を軸にしているので、地域でおさんぽ畑のような取り組みが広がるのは嬉しいです。都市部では住環境上、プランターなど小さな面積でお花などを育てる人が多いです。プランターで野菜を育てるのもひとつの園芸ですが、量や大きさには限界があります。栽培できる野菜の種類も、ミニトマト、ピーマン、ししとうくらい。とうもろこしなど多くの野菜は、地植えでないと栽培できません。地植えを長田区内で経験できるなんて最高ですよね。

角野さん
プランター菜園をやっていた方が、おさんぽ畑を借りるパターンも多いですよ。

勝浦さん
感覚的には「プチ農業」ですね。

西村さん
空き地を活用して、こうやって緑を育てて、人が集まるような場所が1つでも増えたらいいと思います。

角野さん
スタッフさんが熱心に畑に顔を出してアドバイスをしてくれて助かっています。こんなに住民との距離が近いホームセンターってなかなかないですよね。これからもよろしくお願いします。

―おさんぽ畑はどのようにして生まれたのでしょうか。

ここは、以前からごみ屋敷として地域で問題になっていた場所でした。1年前に神戸市から所有者へ「危険空き家通告」がきたと、所有者の支援をしていた方から僕に相談がありました。もともと所有者の方は取り壊してほしくないという意向だったのですが、建物の調査をすると崩壊しつつあることが判明したんです。1年ほどお話を重ねて、結局解体することになりました。更地になった土地は、放っておくと草が生え、ごみが捨てられて、荒れてしまいます。そうなると再び地域課題に発展するので、適切に管理が出来る人へ売却することをおすすめしましたが、所有者の方は「管理はできないけれど、土地は売りたくない」という想いが強くあったため、行きがかり上、僕が空き地の管理を引き受けることになりました。もともとレンタル菜園の構想もあったので、ここでチャレンジしてみようと思いました。

―空き地の管理という側面もあったのですね。

長田区南部では阪神淡路大震災の傷跡としてモザイク状に残る空き家・空き地が課題です。なかでも、管理不完全状態の空き家・空き地は、防犯や衛生、荒廃感の面で周辺に負の影響を与えます。個々のタイミングや景気動向で解消されることもありますが、それまでの間、状態を悪化させないように「暫定管理する」という視点が重要です。空き地管理はボランティアだけでは続かないので、野菜づくりを通して維持管理の仕組みが作られるようにと考え、レンタル菜園を試してみることにしました。

―おさんぽ畑の運営体制は?

長田区南部の空き家・空き地の所有者に寄り添って手助けをする「空き助ながた」という団体で運営しています。「空き助ながた」は、地域にとって負のイメージだった空き地・空き家を、地域にとって魅力のある場所に転換していきたいという想いで作りました。おさんぽ畑のようなレンタル菜園や、草刈サービスを展開していきたいと考えています。目的に共感してくれた、アグロガーデン神戸駒ヶ林店さんと、障害者の就労支援を行っているカレッジ・アンコラージュさんと連携して活動しています。

―おさんぽ畑の活動で難しかったことはありますか。

宅地だった場所なので、瓦などのガラを取り除く作業が本当に大変でした。スコップで土を掘ろうとすると「ガチーン!ガチーン!」とガラに当たって掘り進められない。いくら取り除いても出続けるガラ・・。カレッジ・アンコラージュの方にもお仕事として手伝ってもらいながら取り除き続けた結果、土嚢袋で200~300袋分のガラが出ました。

―運営する上で大切にしていることはありますか。

必ずしもコミュニティを第一の目的にしないレンタル菜園にしたいと思っています。「みんなで一緒に」「みんなで共同作業をしたい」というニーズも確かにあり、それができる場もすごくいいのですが、地域にはそういう輪になかなか入りづらいという人もいます。あくまで、ご近所暮らしをアップデートしたいという想いで始めたので、近所の人が畑を単純に楽しめる場所にしたいです。
コミュニティを目的にしていないのですが、利用者さん同士、畑で会えば挨拶をするし、「スイカすごいですね!」「茄子よくできていますね~。」というような小さなコミュニケーションが日々生まれています。こうした日常の自然なコミュニケーションが後々、良い効果を生みそうな気もしています。

 

―おさんぽ畑の活動で、環境を意識することはありますか。

今まで貸農園の選択肢は、神戸市でいえば西区や北区が主でした。西区や北区なら、おさんぽ畑の3倍、5倍の広さの畑が借りられます。だけど、週末車で出かけて、汗をかきながら雑草ひき続け、収穫したものの量が多すぎて食べきれない…って、大変ですよね。おさんぽ畑のように、近場でコンパクトなサイズなら、ガソリン代もかからないし時間もかからず、自分の身の丈に合った野菜作りができます。これこそ、最近の言葉でいえば「ネイバーフットでサステナビリティな」取り組みではないでしょうか。コミュニティの話に共通しますが、「環境」を目的に畑をするのではなく、「健康のため」「子どもと土いじりをしたい」など、さまざまな目的を持って楽しみながら活動し、結果それが「環境」につながる流れが自然だと思います。

―これからの展望を教えてください。

予想以上にニーズがあることが分かったので、近くにもう1つレンタル菜園を作りたいです。他にはコンポストに挑戦したいと考えてます。空き地の草刈りで出た草を入れて、畑で使える堆肥を作ってみたいです。

―最後に、角野さんが普段の生活で取り組んでいる環境にやさしいことはありますか。

散歩です。エネルギーを使わずに丸一日楽しめるので、趣味の中ではエコだと思います。同じ道でも何度も歩くと変化があります。新築の動きなどが分かるとまちづくりの仕事に役立つし、街中の面白い置物を見つけるのも楽しいです。おすすめは、自分の住んでいる半径2キロ圏内を念入りに歩くこと。ぜひ一度やってみてください。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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