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循環型社会

最終更新日:2025年3月24日

白鶴酒造の酒パックで作る手漉き紙。
その人らしさを大切にした仕事を作り続けるため、
一緒に遊べる人、関わる人を増やしたい。

社会福祉法人木の芽福祉会 御影倶楽部

船橋知恵さん

 

灘五郷のひとつ、御影郷。いくつもの酒造会社が並ぶまちです。その中に、今回訪問する「御影倶楽部」があります。御影倶楽部は、社会福祉法人木の芽福祉会が運営する、就労継続支援B型の障害福祉作業所です。今日は御影倶楽部が長年続けてきた酒パックを使った紙漉きについてお話を聞きにきました。入口で「こんにちは~!」と明るい声で迎えてくれたのは御影倶楽部の職員の船橋さんです。席につくと「コーヒー飲みますか?」と船橋さんがかわいいデザインのドリップバッグを見せてくれました。阪神御影駅近くのロースターから豆と資材を仕入れ、袋詰めや販売を御影倶楽部で行っているそう。ロースターと木の芽福祉会メンバーたちが相談して作った“木の芽ブレンド”は「クラシックでありながらさわやか」なイメージ。やさしい味わいのコーヒーに、御影倶楽部の雰囲気が重なります。

牛乳パックから、白鶴酒造の酒パックの紙漉きへ。
始まりは20年ほど前。

御影倶楽部が紙漉きで使う酒パックは、白鶴酒造から日本酒パック「まる」などの製造過程でやむを得ずロスとなってしまうものを譲り受けています。その始まりを尋ねると、「当時を知る職員が在籍していないのではっきりとは分からないんですよ。一番詳しく知っているのは、御影倶楽部ができた当初から通っているメンバーさんで。(笑)」と船橋さん。そのメンバーさんの話によると、20年ほど前、障害のある方が取り組む事業「授産事業」として、木の芽福祉会の前身となる事業所では牛乳パックを材料とした紙漉きを始めました。一方でその頃、酒造会社ではリサイクル推進の動きが始まり、酒パックをリサイクルするための組織「酒パックリサイクル促進協議会」ができたのだそう。事業所に紙漉きの技術を教えていた方が協議会とつないでくれ、白鶴酒造の酒パックを使った紙漉きが始まりました。

はがす、漉く、加工する、売る。
それぞれの作業に得意なメンバーさんがいる。

まずは酒パックがどのように紙になっていくのか、工程を見学させてもらいました。2階に上がると、明るい陽が差し込む廊下に、漉いた紙が貼られたベニヤ板が並んでいます。貼り合わせて燈篭にするのだそうです。廊下を進むと、突きあたりに大きな部屋があり、にぎやかな声が聞こえてきました。中ではメンバーの皆さんがさまざまな作業をしています。御影倶楽部では、紙漉き以外にもシール貼りやビス入れ、コーヒーのパック詰め、編み物、マンション清掃などの作業があります。
紙漉きの一番はじめの工程は、酒パックのラミネートはがし。指とガムテープを使って、薄いラミネートを引きはがしていきます。一気にはがれないので少しずつ進めていかなくてはなりません。この作業を担当するメンバーさんが素早い手つきで実演しながら、「はがし方はひとつひとつやり方が違うんです。だから臨機応変にやらないと。」とコツを教えてくれました。

次に、ラミネートをはがした酒パックを細かく切り、1階の作業場にある撹拌機で2時間かけて水と一緒に撹拌します。2時間経つと紙の形はなくなり、とろとろとしたのり状になりました。そしていよいよ紙を漉く工程です。紙漉きを担当しているメンバーさんに基本の工程を実演してもらいました。のり状になった酒パックを入れた大きな桶に、紙の型となる木枠を沈め、10秒数えます。木枠を一気に引き上げると、紙の形が浮かびあがってきました。木枠を外してすぐに別のテーブルへ運び、機械で一気に脱水します。あとはベニヤ板に紙を移し、乾かせば完成です。今回の出来栄えにメンバーさんは「きれいやね」とひと言。できた紙に絵が得意なメンバーさんがイラストを描くこともあります。メンバーさんそれぞれの得意を活かして、手漉き紙が作られています。

包装紙や封筒、間伐材も。
あるものは何でも、紙に混ぜてみる。

御影倶楽部には、A4大紙やはがき、名刺、ポチ袋、ブローチ、ブックカバーなどの商品があります。手作業で作られているのでひとつずつ形が違い、カラフルであたたかみがあってやさしい色合いが特徴です。何を使って色を付けているのか尋ねると、なんと、青い色は「職員の給料明細が入っていた封筒」、オレンジ色は「包装紙」なのだそう。ほかにもオーダーによって、糸やチラシ、紙製の卵パック、玉ねぎの皮などを混ぜることもあるのだとか。GO GREEN KOBEで以前紹介した、シオヤコレクションさんで余ったチラシや、SHARE WOODS.(シェアウッズ)さんや神戸芸術工科大学の曽和先生から提供を受けた神戸市産の六甲山間伐材の木くずを混ぜた紙も作っています。

船橋さん
何でも混ぜてみたら、カラフルないい雰囲気の紙になります。色を付けるために何かを買うことはなくて、あるものを使って色を付けますね。

まちへ出て人とのつながりを大切にしながら、手漉き紙の販路を拡げてきた。

「福祉事業で作られた商品は出口が大事。売れないと持続できない。」と話す船橋さん。御影倶楽部は、毎月数回、自主企画やイベント出店を行い、販売の機会をたくさん作っています。例えば、商業施設の福祉バザーや区役所のイベント、地域コミュニティの拠点での出店など。多様な商品を作り、精力的に販売をしている御影倶楽部ですが、実は作った紙が売れない時期があったそうです。

船橋さん
私が入社した2012年頃は、漉いた紙は売り先がなく、全然売れていなかったんです。作業場に紙が積み上がっていましたね。でも紙漉きを辞めてしまうのはもったいないから、2014年頃、元町の「トンカ書店(現在は花森書林)」へ紙を買ってほしいと相談に行って、委託販売をしてもらうようになりました。それでも紙が余るからお客さんに配っていたら、作家さんたちが気に入って使ってくれるようになって。そこから販路が見え始めました。作家さんたちに恩返しをしたくて、白鶴酒造資料館を借りて、2015年に御影倶楽部の紙で作った作品を発表する場として「御影倶楽部と仲間たち展」を開催しました。同時期には「kobeもりの木プロジェクト」から声がかかって間伐材入りの紙を作るなど、どんどんネットワークが拡がっていきました。

誰でも簡単にできる紙漉きワークショップ。
道具はボウルとあくとり。

白鶴酒造が年に2回開催している「酒蔵開放」というイベントで、2013年から御影倶楽部は毎年手漉き紙の体験ワークショップを出店しています。先ほど見せてもらった大きな桶と木枠を使うのかと思いきや、ワークショップの道具は「ボウルとあくとり」ととてもコンパクト。手順はボウルに水で溶かした酒パックを入れ、あくとりですくい、手で脱水してベニヤ板に貼り付けるだけです。あっという間に、手のひらサイズの丸い紙が出来上がります。

船橋さん
ワークショップの荷物をかばんに入るサイズにすれば、車を出さずに電車で行けるので、何人でも参加できるメリットがあって。たくさんの人数で行くと楽しいんです。販売に行くメンバーさんの中には、有名人もいるんですよ。

紙漉きのお面をかぶってまちを練り歩く?
手すき紙の輪はどんどん拡がる。

御影倶楽部が2022年に制作した動画「わたしのことばノート」では、手漉き紙で作ったノートを使う人たちのインタビューがまとめられています。この動画を見て驚くのは、アーティストや飲食店、教育現場など、さまざまな分野の方が登場すること。絵を描けば作品が生まれ、文字を書けばお店のポップにもなる。ワークショップをすれば、子どもから大人までみんなが楽しめます。御影倶楽部の手漉き紙には使い方も関わり方もたくさんあるので、輪がどんどん拡がっています。船橋さんは「多彩な人に知り合えるのは神戸ならでは」だと話します。

船橋さん
最近ではアーティストさんと一緒に、「本気の節分」というプロジェクトを企画しました。手漉きの紙で張り子状のお面を作りました。お面を作るワークショップをして、できたお面をかぶってまちを練り歩いて。ミュージシャンも関わってくれたので音楽と振り付けもできて、みんなで踊りながら歩いたんです。途中で見知らぬ親子が面白がって合流して、最後には何人か増えていました。(笑)

作業に人を合わせるのではなく、作業を人に合わせる。
紙漉きはみんなを包み込んでくれる。

御影倶楽部の作業風景や船橋さんのお話を聞いていると、雰囲気がとても明るくてひとりひとりの個性を大切にしているように感じます。どんなことを大切にされているのでしょうか。

船橋さん
木の芽福祉会の法人理念は『一人ひとりの「しあわせ」を みんなで つないで ゆたかな街に』。“個別性”をとても大事にしていて、その人らしさにフォーカスすることにこだわってきました。だから、作業に人を合わせるのではなくて作業を人に合わせ、その人に合った作業を作りたいと思っています。御影倶楽部のメンバーは、18歳から76歳まで幅広い世代の方がいて、いろんな人たちを紙漉きがふわっと包んでくれているように感じます。

紙漉きは、捨てない第一歩。
メンバーさんを第一に考えたら、環境分野に結びついた。

福祉と環境、一見関わりのない分野をつなぐ御影倶楽部の手漉き紙。取り組みの中で、船橋さんは福祉と環境についてどのような想いを持っているのかお聞きしました。

船橋さん
酒パックから剥がしたラミネートは捨てるし、乾かすときに使うベニヤ板はある程度使うと水を吸わなくなって交換しなければいけない。水を使うし、ごみも出てしまう。「これって一体何のためだろう?」ってすごく考えてしまうことがあるんです。でも、この取り組みは「捨てないトライ」「捨てない第一歩」でもあるなと思っていて。私たちの目的は、福祉的就労を持続可能にしていくことです。私たちは環境問題というよりはむしろ人権の問題にずっと関わりを持っているので、メンバーさんたちのお給料を確保して少しでも上げていくために動いています。材料の調達時間や事務作業が減れば、職員がメンバーさんに関わる時間を増やすことができます。紙漉きは、材料調達がすぐにできて、原価が0円だから続けられています。そこに、いろんな人が「面白いね」と言って関わってきているのは、福祉的にも環境的にも意味があるんだろうなと思いますね。

白鶴酒造と築いてきた顔の見える関係性。
梅酒梅や稲わらなど、酒パック以外のアップサイクルも。

白鶴酒造と御影倶楽部は長いお付き合いの中で、信頼関係を築いてきました。最近では白鶴酒造からは酒パック以外にも「余った○○を、何かに活用できませんか?」と相談があって、梅酒の梅や、白鶴錦という酒米の稲わらを譲り受けることも。稲わらは、しめ縄づくりのワークショップに使われました。「白鶴酒造さんからの相談を“大喜利”みたいに楽しんでいますね。」と船橋さん。酒蔵のまち神戸だからこそ実現できた取り組みです。

手漉き紙の可能性はまだまだこれから。
インバウンドも見据えて。

船橋さんは、どんどん外に出て新しいつながりを作ることが好きなのだそう。これからやってみたいことを聞いてみると、キーワードは「立体」「キット」「インバウンド」だと教えてくれました。

船橋さん
今度は「立体」の紙漉きを実現したいんです。立体の手すき紙ができれば、よりいろんなところに提案できるし、アーティストやミュージシャン、役者の人たちなど、“一緒に遊べる人が増える”と思っていて。あと、神戸芸術工科大学の学生さんと紙漉きの枠の共同開発を始めています。ほかにも、神戸には訪日客が多いので海外の人に紙漉きを体験してほしいと考えています。まずは私が喋られるようにと思って、最近英会話を習い始めました。

捨てられないのではなく、捨てないようにする。
視点を変えてみる。

最後に、船橋さんが普段している環境にやさしいことを尋ねると、「普段から、ものを捨てないです。捨てられないのではなくて、捨てないようにしています。」との答え。ダーニングが好きで、靴下などはできるだけ長く使っているのだそうです。紙漉きの取り組みにもこの考えは活かされているように感じます。みなさんも、家にあるものを捨てる前に少し視点を変えて、アップサイクルに挑戦してみませんか?

 

社会福祉法人木の芽福祉会 御影倶楽部
https://kinomefukushikai.com/mikageclub/

 


社会福祉法人木の芽福祉会 御影倶楽部は、令和6年度 神戸SDGs表彰にて『福祉就労として、「白鶴酒造」の酒パックの工場損紙を再生し、手すきの紙にする事業を行い、環境課題と福祉的就労の双方にアプローチした事業を実現している。』ことを評価され、神戸SDGs功労賞を受賞しています。

【令和6年度 SDGs表彰 受賞者】
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/58029/2024riihuretto.pdf

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