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最終更新日:2025年3月5日
個性豊かな資源を無駄なく使う。
山の保全と連動しながら、
小さい範囲でものづくりが完結する
ローカルな循環を作りたい。
SHARE WOODS.
山崎正夫さん
私たちの身の回りには、木を使った食器や家具、装飾がたくさんあります。木に触れるとあたたかみを感じたり、ほっとしたりするのではないでしょうか。では、その木がどこの森からやってきたか考えたことはありますか?今回は、木材の地産地消に取り組むSHARE WOODS.の山崎さんの活動をご紹介します。
山の整備と連動した“山ありき”のものづくり。
兵庫区の南部、海のすぐそばに鉄工所などの工場が建ち並ぶエリアがあります。その中に「マルナカ工作所」という看板を発見。大きな入口を入ると、たくさんの木材が積み上げられたり立てかけられたりしていて、心地のいい木の香りがします。ここは造船工房「マルナカ工作所」跡地を再利用した拠点「MAR_U(マル)」。神戸市産の木材を使った家具などを制作している場です。今回はMAR_U を拠点に活動するSHARE WOODS.の山崎さんにお話を聞きにきました。「すぐ近くの運河は昔、海外から輸入した丸太が一面に浮かんでいたらしいです。丸太の上を歩いて、向こう岸まで行けたとか。」とこの場所と木の意外なつながりを教えてくれました。
山崎さんは2013年に「SHARE WOODS.」を立ち上げ、神戸市産の木材を活用したプロダクト開発やブランディングを手掛けてきました。神戸市役所の1階ロビーにあるベンチや「こども本の森 神戸」の椅子、KIITOのフロア内装など、携わった作品は神戸市内のさまざまな場所で見られます。販売は行っているのですかと尋ねると、「基本的に受注生産。相談を受けて作ることがほとんどです。」と山崎さん。受注生産である理由は、六甲山の歴史が関係しているのだそうです。
神戸市民にとって身近な存在である六甲山。実は、明治時代の後半までは荒廃した“はげ山”でした。1900年頃、神戸市は、土砂災害を防ぎ、水源である山の保水力を上げるため植林事業を開始しました。明治神宮の造営などを手掛け「日本の公園の父」とも呼ばれる造林学者の本多静六博士が計画に携わり、林業を前提とせず景観や防災の観点から多種多様な広葉樹が植えられました。現在、神戸市内の森林の9割以上は広葉樹林なのだそう。そして樹種の多様な広葉樹林であっても、豊かで安全な森を保つためには整備が欠かせません。手入れをしなければ、植生の多様性が失われ、山が崩れやすくなります。今神戸市の里山エリアで問題視されている「ナラ枯れ」は、放置された木が巨木化し、虫がつきやすくなったことが原因の一つだと言われています。神戸市などの山の所有者は、豊かな環境を保つため森林整備を行っています。山崎さんは、森林整備で伐採された木材「間伐材」の有効活用に取り組んできました。森林整備で出る間伐材は、その時々によって量や種類が異なるのだそう。そのため、定期的に同じものを作るのではなく受注生産が基本になります。
山崎さん
山の整備と連動しているので、そのときあるもので作らざるを得ないんです。「ヒノキはないけどスギはある」「その樹種は2年後までない」ということもあります。山ありきのものづくりの視点なので、お客さんにも山のことを理解してもらったうえで、初めてものを作れるっていうのが僕のやり方です。さらに広葉樹は、乾燥が難しかったり曲がっている木があったりして、扱いがとても難しく工夫が必要で。今はビニールハウスを使った人工乾燥に挑戦しています。広葉樹の扱いのノウハウを蓄積していきたいですね。
処分される木を救う仕組み「シェアドバ」。小さな枝まですべて無駄なく使っていきたい。
2023年に神戸市は、健全な森林を維持していくことを目的に、森林整備や木材活用などに関わる様々な担い手をつなげる「こうべ森と木のプラットフォーム」を立ち上げました。その中で間伐材の活用を進めるために始まったのが、森林整備で伐採した丸太などをストックしほしい人に情報共有したり、入札したりする「ストックヤード」の仕組みです。神戸市から相談を受けてストックヤードの構築にも関わってきた山崎さん。「今後は自分の事業の中でやっていきたい」と考えて今回新たに、民間版のストックヤード「シェアドバ」を始めました。家や事務所の建替えなどで敷地内の木を切らければならないとき、伐採した木は保管する場がなく処分されてしまう現状があります。伐採した木を一旦引き上げてストックできる場所「シェアドバ」を設け、処分されずに活用方法を探る仕組みを作りました。
山崎さん
ある会社の事務所の建て替えで、敷地内の1本のクスノキを切らないといけないという話があって。会社の人から相談を受けて、そのクスノキでテーブルを作りました。残った部分は階段の手すりに使ったり、木くずにプラスチックを混ぜて3Dプリンターで植木鉢を作ったりしました。
伐採した木は枝がついたままの状態でシェアドバに運ばれてくるのですが、太い枝は薪として販売し、細い枝はバイオ炭にして地域の市民農園などに還元していく事業も進めています。資源を無駄なくすべて使っていきたくて。
つながりを活かせば、木でできないことはほとんどない。バランスを考え続ける調整役。
さまざまな依頼に応え、今までにない新たな木材の活用方法を生み出してきた山崎さん。ひとつのプロジェクトに、とても多くの人が関わっているのではと想像できます。どのようにプロジェクトを進めているのか尋ねてみました。
山崎さん
「これならこの人に頼んだらできる」というこれまでのつながりがあるし、知り合いに相談して「それならこの人がいい」と紹介してもらうこともあります。木でできないことはほぼない、ですね。
僕は、自分自身を「調整役」だと思っています。山のことはもちろん考えるし、設計士さんやデザイナーさんが考えていることはよく分かるしワクワクすることもいっぱいある。一方で、丸太の所有者や乾燥屋、製材所の都合やスケジュールも考えなければならない。需要と供給のバランスを調整することを常にすごく考えていますね。それぞれに「ちょっとここはこうしてほしい」とお願いしたり「なんとかします」と答えたり。だからどっちからも嫌われているかも知れない(笑)。でも、いいものができたら「良かったな」と。
神戸だからこそ実現できる、小さな資源循環。
SHARE WOODS.の活動と環境問題の関係について尋ねると、「木材は“遠距離”なんですよ」と山崎さん。輸入木材は、赤道を通って地球を一周回るほどの移動があり、国内だとしても産地はさまざまでトラックでの長距離運搬が必要です。木材の地産地消は、移動時の二酸化炭素の排出量を減らすことができる環境にやさしい取り組みといえます。さらに山崎さんは、地産であることの先に「ローカルな循環」が生まれていくと教えてくれました。
山崎さん
神戸は、海・山・町が近いので、小さな資源循環を生み出せるのではないかと思っています。六甲山があって、ドバがあって、製材所があって、加工所があって。MAR_Uの周りは工業地帯なので、いろんなことができる人がたくさんいます。小さな範囲でものづくりが完結して、それがちゃんと山の保全と連動していることが「循環」かなと。これが大規模な生産体制になると一瞬で山が枯渇してしまいます。大量に作れないからこそ、ひとつのものに付加価値をつけていく話になっていく。特に神戸や六甲山はブランド力があるので、可能性を感じます。山の資源とまちの仕事のバランスをうまく回していける小さな仕組みが、環境にやさしいといえばやさしいかもしれないですね。
ひとつひとつ違う木の個性。活かし方を考えるのが面白い。
山崎さんはドイツ木材メーカーの輸入代理店に在職中、間伐材を使って、楽器の「カホン」を作るプロジェクトを始めたことをきっかけにSHARE WOODS.の活動へとつながっていきました。実は大学卒業後の就職先は、出版社だったのだそう。編集のお仕事と今の活動、少し共通する点があるようです。
山崎さん
もともと建築の分野には全然、興味がなかったんです。でもやりだすとすごく面白くて。木って、1個1個の見え方が違うじゃないですか。ホームセンターに積まれているパレットを見ても全然ピンとこないけれど、森に生えている木や丸太を見たら、同じ種類であってもひとつずつ違っていて想像が湧いてくる。「この木なら、こうしたらうまくいくかも。」って考えるのが面白いんです。そういった部分では、編集に通じるものがあるかもしれませんね。
「地域活動のひとつに『山の整備』を加えてみませんか?」と投げかけたい。
山崎さんは、「山の整備に関わる市民を増やす」ことに挑戦したいのだそう。どんな仕掛けを考えているのでしょうか。
山崎さん
地域には、定年した世代の人たちが市民農園やコミュニティ活動をやっている人が実は結構たくさんいて。そういった地域で既に活躍している人たちに「山の手入れをする」っていう活動を投げかけてみたいんですよね。森林ボランティアの団体を呼んで、森林整備の技術を教わる仕組みができたらいいなと。自分たちで木を切って薪をストックしておけば、防災にもつながります。これからも「木」というキーワードで、何か役に立てることを考えていきたいと思っています。
ものの背景やその先をイメージする力を持てば、自然と行動していける。
最後に、環境問題に何かアクションをしたい人に向けて、すぐに始められそうなことを伺いました。
山崎さん
まだまだ個人レベルでは、地元の木を使うことに対して関心は高くありません。「木だったら、何でもいい」という風潮がありますよね。でも決してそうではなくて、もしかしたら海外で違法伐採されて、安い賃金で働いている労働者が背景にあって、安い値段で木の商品が手に入るのかもしれない。1個のものに対してそれはどういう背景でこれがここに来ているのかとか、誰が作ったのかと思考することが結構大事かなと思っています。作り手が見える形で地域の中で循環していけば、値段の背景にある技術力や労力が見えて「高い」と感じなくなっていく。ひとつひとつの背景やその先を少し気にしてみると、環境にやさしい行動につながっていくんじゃないかなと思います。
SHARE WOODS.
www.share-woods.jp
この取り組みの一部は、神戸市が実施しているKOBEゼロカーボン支援補助金制度を活用しています。
【KOBEゼロカーボン支援補助金制度】
2050年二酸化炭素排出実質ゼロの実現に向け、神戸の豊かな自然や環境を活かし、自由な発想による先進的で創造性に富んだ、地域貢献につながる取組みにチャレンジする市民、団体、法人などを積極的に支援する神戸市の補助金制度です。
https://www.city.kobe.lg.jp/a73498/zero_carbon_aid.html
SHARE WOODS.(シェアウッズ)は、令和6年度 神戸SDGs表彰にて『木にまつわるあらゆるプレーヤーをつなぐ木材コーディネータとして、六甲山の伐採木をはじめとする神戸市産木材に多様な価値を与えている。』ことを評価され、神戸SDGs奨励賞を受賞しています。
【令和6年度 SDGs表彰 受賞者】
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/58029/2024riihuretto.pdf
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