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循環型社会

最終更新日:2022年1月21日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/中川聡子・坂本友里恵さん提供

環境にやさしく、人にやさしい。
市場の空き地に生まれた畑が育てているのは、
人と人とのつながりでした。

「いちばたけ」運営メンバー

佐藤 直雅さん 丸山 公也さん
坂本 友里恵さん
門坂 紘典さん 廣瀬 美帆さん
川崎 一希さん 新田 優奈さん

灘中央市場内にある空き地を活用したユニークな取り組み
「いちばたけ」は地域住民が自由に参加できるプランター型菜園。
農作業やイベントを通して、人が人を呼ぶ、
地域交流の場を生み出し、市場の活性化につながっています。

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-いちばたけの活動内容を教えてください。

佐藤さん
灘区の水道筋商店街にある灘中央市場の空き地を活用して、運営メンバーや参加者みんなで一緒に考え、作業しながら畑を管理しています。現在、月に2回の活動日を設け、それに合わせてイベントも行っています。今日は焼き芋とコーヒーの麻袋を使ったオーナメントづくりのワークショップ(連携企画)をやりました。

丸山さん
いちばたけは今年で3年目。今年11月から「チャレンジファーマーズ」を始めました。区画をレンタルし、植える苗や野菜を選ぶところからお世話までを借主に管理してもらいます。「土に触れたい」「自分で野菜を作って、収穫を楽しみたい」と多数の応募がありました。近隣の方だけではなく、他地域の方もいて、すごく興味を持って活動していただいています。畑をするのが初めての方や経験者もいて、「こうやったらいいよ」「間引き菜は食べられるよ」と、参加者同士で教え合って、自然に交流が生まれているのがうれしいですね。

-いちばたけは、緑を増やし、自然に触れる機会を作る環境にやさしい取り組みですね。特に環境に意識していることはありますか。

丸山さん
いちばたけは有機栽培です。農薬や化学肥料は一切使わず、牛糞の堆肥を使っています。2021年の春、北区の農家さんから水稲の苗をもらって栽培したのですが、収穫した後の藁を捨てずに、寒さ対策で土の上に敷いてみました。

坂本さん
メンバーそれぞれが「これいいな」を見つけたら、いちばたけでチャレンジしています。有機栽培は害虫がたくさん付きますが、アブラムシを見つけたら、みんなで牛乳スプレーをふりかけ、ナメクジを見つけたら、みんなでコーヒー殻を撒いて駆除します。あの手この手で協力してやっています。

丸山さん
トウモロコシやオクラなど、収穫した野菜を干したり、種を残しておいて、また翌シーズンに植えています。いずれはいちばたけ内で種を循環させたいと考えています。

坂本さん
自然に種がこぼれて、気づいたら下のブロックの隙間からイタリアンパセリが生えていたこともありました。

佐藤さん
プランターには古材を使ったりしています。建築現場で使われていた足場板を手に入れて再活用しました。

坂本さん
最近始めたコンポスト。畑作業で間引いた茎や葉が大量にあり、これを燃えるごみとして捨ててしまうはもったいないので、市場にある肉屋さんの油粕、味噌屋さんや米屋さんの米ぬか、八百屋さんの野菜くずをコンポストに入れて、市場の物だけで堆肥を作ろうと思ったんです。
できた堆肥でまた次の野菜が育ったらとてもいい循環になりますよね。その話に興味を持ってくれるお母さんたちも結構いるんです。家庭で出た野菜の皮を乾燥させて持って来てもらってコンポストに入れ、みんなで堆肥を作る取り組みにも挑戦したいと思っています。

-みんなでアイデアを出し合って取り組むことは素敵ですね。いちばたけはどんな経緯で始まったのですか。

佐藤さん
私と丸山さんは神戸市職員です。私は担当していた水道筋界隈の空き地問題をなんとかしたいという想いがあり、丸山さんは地元が灘区で、空き地が増えている商店街を活性化したいという想いがありました。ある会合で出会った時に話が弾み、「私は建築職、丸山さんは農業職だから、市場に畑を作れないかな?!」の発想から生まれたのが「いちばたけ」です。
ただ、私たち2人だけでは想いがあっても実現することは難しいと考えて、コミュニティづくりや企画の専門家である坂本さんを誘いました。
1年目は場を作るところから始め、3人で「こんな風に緑があふれる空間になったらいいね」と話し合いを重ね、イメージ図を描きました。このメンバーの面白いところは、得意分野がそれぞれ違うことです。私は建築、丸山さんは農業、そして坂本さんはまちづくり。3人の強みを生かしてどんなことができるかを話し合いました。
元々タイル貼りの空き地だったので、プランターを作り、土を入れるところからスタート。野菜を育て始め、スタートして3か月後にはイメージに近づきました。それからは関わりを深めてくれる人がどんどん増えていき、3年目にメンバーが3人増えて6人になりました。

-新しいメンバーのみなさんは、どんなきっかけや想いで参加されていますか。

廣瀬さん
私は子供の頃、母や祖母に灘中央市場によく連れて行ってもらっていました。でも最近は、市場のお店が減ったことで、足が遠のいていました。たまたま市場とは関係のない集まりで坂本さんに出会い、いちばたけができたことを知ったんです。行ってみたら、緑もあるし、空も見えるし、心地よくてすっかり気に入ってしまいました。
イラストレーターをしているのですが、ある時から、ナイロン製の土の袋で鯉のぼりを作るワークショップやコーヒーの麻袋を使ったガーランド作りなどの講師を担当するようになり、いちばたけに深く関わるようになりました。
いちばたけは、集まった人たちがフラットな関係で付き合えるのが良いところです。水をやりに行くついでに、市場で買い物をするようになり、いちばたけがきっかけで、また灘中央市場を利用するようになりました。

門坂さん
佐藤さんと共通の友人がいて、その友人の結婚式のムービーを撮るために佐藤さんに会いに来たのがきっかけです。その時、佐藤さんがいちばたけの活動をしていることを初めて知りました。活動に参加するうちに、気づいたらメンバーになっていました。
神戸市に勤めているのですが、今は市職員でありながら大学院に通っています。大学院ではまちづくりや公共政策を学んでいて、いちばたけは研究のフィールドワークという視点でも関わりたいと思って参加しています。

川崎さん
近所に住んでいますが、灘中央市場に来たことがなかったんです。門坂さんと一緒に佐藤さんを訪ねた際、いちばたけの存在を知りました。神戸市職員ですが、地域に係る機会が少なかったので、一度地域に出てみたいなと思っていたところでした。学生の頃、イベント制作会社で働いていた経験もあり、いちばたけの活動に参加したいと思いました。
いちばたけの活動で面白いのは、市場の方とお話できること。なかなかない貴重な機会が新鮮で面白くて。「新しいことをしていきたい」と話す商店主さんが多いんです。

新田さん
コロナ禍で大学生活が制限される中、「何かしたい」と思っていた時に坂本さんと出会いました。今回、坂本さんに誘っていただいて、初めていちばたけのイベントに参加しました。単純に「楽しそうだったから」というのが理由です。参加してみたら、人と人のつながりがすごく強く、居心地が良くて。これからも参加したいと思います。

-いちばたけは、関わる人を増やすのが上手いと感じました。どんなことを意識しているのでしょうか。

廣瀬さん
坂本さんを見ていると、「こんなことしたい」「参加してみたい」という参加者の声を聞き逃さないことがポイントだと感じます。丁寧に連絡をしたり、商店主さんとの橋渡しをしたり、細やかな心配りをしていますね。
私もそうですが、畑作業が好きというよりは、いちばたけメンバーがいるから行きたくなるんです。「人に会いたくて来る」っていう人は多いと思います。
市場の方に積極的に声をかけているところも大事だと感じます。市場との関係を大切にしていると、商店主さんも「今日は何してるの?」って気にかけてくれて。利用者、商店主という立場ではなく、その垣根を超えてお話できるのは、日頃から坂本さんたちが心配りしているおかげだと思います。

坂本さん
市場の方はすごく協力してくださっていますね。いちばたけの土や種は市場内のお店で買うのですが、「これが欲しい」と相談すると、「探してくるわ」と快く引き受けてくださいます。今日の焼き芋も事前に八百屋さんに相談したら、「焼き芋用だったら、こういう品種のがいいから、仕入れとくわ!」と言ってくれて。焼き芋用の一斗缶は、お肉屋さんにお願いして譲っていただきました。お礼に焼き芋をお渡ししました。

-みなさんは楽しみながら、自然に、環境にやさしい選択をしているようですね。

坂本さん
市場で買ったお惣菜の容器を洗ってペイント用のパレットや水入れにしたり、アプリ(ジモティー)でワークショップの材料を探したり。物を捨てる前にまず別の使い方を考え、物を買う前には買わずに調達する方法を考える。いい意味で「ケチ」なのかもしれません。

佐藤さん
いちばたけでやっていることが、結果的に「自分の家で野菜を育ててみようかな」と、個人個人の意識の変化につながっていると思います。大事なのは、環境問題を解決しようと取り組むのではなくて、「自然とやっていたことが、環境にやさしいんだ」と知ってもらうことかなと。いちばたけは、そのきっかけづくりをしていると思います。

-1人では難しいことも、みんなで楽しみながらならチャレンジできますね。活動を続けていくための課題はありますか。

佐藤さん
この取り組みをどう継続させていくかですね。最初の想いだけでなくて、目標を達成した時に、次どうするか。視野を変えていく必要があります。

坂本さん
普段、活動の仕組みづくりをする仕事が多いのですが、意識しているのは、一発の打ち上げ花火で終わらないようにスロースタートで始め、継続するための方向性を見極めていくこと。そして、活動の中でいかにモチベーションを持って関わってくれる仲間を探せるかが大切ですね。

-継続はどんな活動においても共通の課題ですね。いちばたけの今後の展開がとても興味深いです。最後にこれからやってみたいことを教えてください。

坂本さん
コンポストをうまく運用していきたいですね。

門坂さん
収穫祭をやりたいですね。チャレンジファーマーズも始まって、いちばたけに関わってくれる人が増えたので、みんなで収穫祭ができたらいいなと思っています。

佐藤さん
ピザ窯を作りたいというアイデアがあります。これは参加者の要望なのですが、いちばたけをみんながやりたいことを主体的にできる場所にしていきたいんです。みんなそれぞれがいちばたけの活動を楽しみたいと考えていますが、関心は少しずつ違うんです。その少しずつの違いが、活動の幅を広げる結果になり、面白いんじゃないかなと思います。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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