GO GREEN KOBE 環境にやさしい神戸をつくる。

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循環型社会地産地消

最終更新日:2022年6月1日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/江副真文・IN THA DOOR BREWING提供

神戸でしか作れないビール。
人の想いがつながって生まれる
リアルローカルビールを作りたいんです。

IN THA DOOR BREWING

(インザドア合同会社)

中村 美夏 さん

地産の原材料にこだわる地域密着型ブルワリー IN THA DOOR BREWING(インザドアブルーイング)。神戸の天然水「神戸ウォーター 六甲布引の水」を100%使用し、農家や企業とのコラボレーションから生まれるのは、真似のできない神戸のリアルローカルビールです。

web site
https://inthadoorbrewing.com/

Instagram
https://www.instagram.com/in_tha_door_brewing/

-神戸でビール作りを始めた経緯を教えてください。

もともと私は会社員で、パートナーの中戸はバーを経営していました。ご縁があって知り合った醸造所の社長さんに「神戸でビール作ってみたら?」と背中を押してもらったのがきっかけです。当時の神戸では、まだクラフトビールはまったく知られていなかったけど、アメリカではすごく人気がありました。いずれ日本でもブームになり、新規参入や淘汰が繰り返されるんだろうなと考えた時、特徴的な個性やスタイルが確立されていれば、生き残れるブルワリーになれるんじゃないかと。そう考えて決めたインザドアのテーマが「地域に密着したローカルビール」でした。その土地の味が出せないと、結局どこで作っても同じビールになってしまいます。大量生産できなくてもいいから、神戸でしか作れないビールを作ろうと考えました。

-どんな「ローカルビール」を実現したのですか。

ビールの原材料は、水とホップと麦。私たちがまず「ローカル」に挑戦したのは、ビールの90%を占める水です。神戸市内に多くの酒蔵があるのは水質がいい証拠。実際に水がいいのは神戸市民として当然知っていて。そこで、「神戸ウォーター 六甲布引の水」を扱う神戸クアハウスさんに提供をお願いして、醸造の1回目から水道水は使わず、100%神戸ウォーターで作り始めました。

-神戸ウォーターのビールは順調に実現したのですか。

実は最初、神戸クアハウスさんに水の提供をお願いに行った時、断られてしまったんです。「やっぱり難しいのかな」と諦めかけて帰ろうとしたら、営業スタッフの方が追いかけて来てくれて、「絶対やりましょう、私が会社を説得します。」って言ってくれたんです。結局その方のおかげで、神戸ウォーターのビールを作ることができました。

いざ作ってみると、神戸ウォーターとビールの相性は良かったのですが、ホップの香りが乗りにくいことが分かりました。でも、神戸ウォーターを使っている醸造所が他にないので、誰にも相談できずに困ってしまって。水の数値を調整する方法もあるんですが、インザドアはローカルがテーマです。水は絶対いじらずに、この水だからできる味を大切にしようと、温度や材料を入れるタイミングを少しずつ調整しました。2年間の試行錯誤の結果、ようやく今のビールにたどり着きました。

 

-「ローカル」という軸にこだわって挑戦し続けたんですね。水の他にもローカルを意識していますか。

ビールを作り始めた当初は、水のことで精一杯で、地域の農産物まで考えられていなかったし、神戸市内に農家さんがたくさんいることも知りませんでした。その後、ご縁があって出店したEAT LOCAL KOBEのファーマーズマーケットで、「神戸にはこんなに多くの農家さんがいる」「ビールに使える食材がたくさんある」と知りました。
そこで、初めてコラボしたのが蜂蜜です。たまたまファーマーズマーケットでお隣同士だったご縁で、北区の「いなだ養蜂園」さんの蜂蜜をビールの副材料にたっぷり使ってみると、これがとても美味しくて。しかも面白いし、これは絶対うちしかできない取り組みだと思いました。そこから、ファーマーズマーケットで知り合った農家さんのフルーツや野菜を使ったビールを作り始めました。さらに今は北区でホップをで育てています。ホップはこれから神戸のいろいろな場所で育てたいと思っています。

-これまでどんなビールを作ったんですか。

ビールって大体何でも合うんですよね。トマトやとうもろこしのビールも美味しかったです。柑橘系は間違いなく合います。特に人気だったのはミントのビール。弓削牧場さんのミントを使ったビールをイベントで販売した時はすごい勢いで売れました。力強い野性的なミントで、さわやかな味のビールになりました。
UCCさんとコラボして作ったコーヒー豆を使った黒ビール「コーヒースタウト」は何年も作り続けていました。醸造する日の朝に豆を挽くのでとってもいい香りでしたよ。
フロインドリーブさんにお声がけいただいて、廃棄されるパンを使ったビールも作りました。お菓子に変えたり、加工をしても追いつかない量だといいます。ビールであれば一回の醸造で大量にパンを使えるのでやってみようと。「Re Bread」というライ麦パンのビールはライ麦のいい香りがして美味しかったですね。

-農産物に限らず、神戸のさまざまな食材を使うんですね。日頃から心がけていることはありますか。

私たちはビールをつくることが仕事です。お客さんにビールでどれだけ楽しんでもらうかが一番の仕事だと考えています。そこで、旬の食材を使ったビールだけではなく、通年販売する定番ビールを5種類作っています。定番ビールの麦とホップは、海外から輸入しているものですが、そこに入れる副材料はハチミツやオレンジピールなど、ローカルのものを使っています。定番ビールにプラスして、月に2種類程度は旬のフルーツやハーブで作るビールを販売し、常に7種類のビールを置くようにしています。旬のビールだけ作り続けていたら「今年のフルーツの味がこれだから・・・」と言い訳できてしまいますよね。それはブルワリーとして格好悪いなと。「絶対美味しい5種類だけじゃなく、旬の食材を使って美味しいビールも作れるのがインザドア!」という打ち出し方をしたいんです。

-農家さんとのコラボには、お互いどんなメリットがあるのでしょうか。

ブルワリーと農家さんとは、全くフィールドが違うし目的も違うのですが、被るところもあるなと感じています。例えば、農家さんで沢山収穫できた柚子でも傷があるとB品になってしまいます。農家さん自身でジャムにしたりお菓子屋さんに卸したりするけれど、一度に量が捌けません。ビールは醸造一回に沢山の量が使えるし、傷は全く関係ない。お互いのメリットを話していくうちに、コラボにつながっていきますね。

-地元の食材を使ったビールはまさに環境にやさしい取り組みだと感じます。他に環境にやさしい面はありますか。

うちは製造で出るごみの量が少ないんです。フルーツは皮と果汁、種に分け、使うタイミングを変えて、丸ごと使い切っています。毎年、淡路島の鳴門オレンジのビールを作っているのですが、乾燥させた皮は定番ビールの香りづけに使っています。麦汁を作る工程で出る「モルトかす」は1回の仕込みで50~60キロと大量に出るのですが、クラフトビール業界ではモルトかすを廃棄しているところがほとんど。大手企業は捨てずに家畜のえさにしているそうです。うちは、モルトかすをアップサイクルし、パンやクラッカーに変えてお店で提供しています。それだけでは余ってしまうので、無料で配布しています。使い方は多様で、農家さんの畑の肥料、淡路島の北坂養鶏所の鶏のえさ、元町のグラノーラ屋さんではクラッカー、ケーキ屋さんはスコーン、パン屋さんはバンズに。いろんな用途に使ってもらえるので、モルトかすは一切捨てていません。「モルトかす」に興味のある方や、使ってみたい方は連絡くれたら無償でお渡しますよ。

-生産地が近い神戸のメリットを存分に活かしているように感じます。

「生産地と近い」ということはメリットしかないと思っています。神戸市内で多くの材料が手に入るので、輸送コストが下げられます。輸送で排出されるCO2も抑えられ、環境にもやさしいですよね。ほんの20~30分で生産地に出向けるので、農産物の様子を見たり、収穫ができて、とても効率がいいです。
「フレッシュホップ」といって収穫してすぐの新鮮なホップを使ったビールがあるのですが、産地と醸造所が近くないとできないので、なかなか作るのが難しいビールです。神戸なら提携している農家さんからホップをもらってすぐ醸造できます。これは神戸の地域性ならではだと思います。

-多くの農家や企業と連携してビールを作っていますね。コラボレーションで大切にしていることはありますか。

いろんな方と連携できる要因のひとつは、「ビールがキャッチー」という点があるかもしれません。農家や企業のみなさんは「自分たちがつくる食材がビールになったらいいな」とビールに夢を託してくれているようで、ビールが完成すると、「やっと私のビールができた!」と、とても喜んでくれます。コラボする上では、よっぽどじゃない限り、「一回は断らない」と決めています。あと、やっぱり一番大切なのは「人」ですね。きちんと話を重ねた仕事に失敗はないと考えています。十分に話を尽くした仕事は丸く収まって、その後もいい関係が続きます。例えば2016年からフルーツを使い始めた農家さんは今でも毎年使わせてもらっているし、いなだ養蜂園さんの蜂蜜も使い続けています。その様子を見た他の農家さんが「うちのこれも」と声をかけてくれ、さらにその様子を見た地域のスーパーマーケットから「インザドアのビールを扱いたい」と連絡が来ることもあります。じわじわと、人から人へ、つながっている感じがしますね。

-お客さんからはどんな反応がありますか。

純粋に、ビールを通してローカルを楽しんでもらえている印象です。「鳴門オレンジは淡路島産なんですよ。」と説明をすると、「淡路島でオレンジ育ててるんや」と、ローカルに興味を持ってくださいます。インザドアの取り組みを知ってお店に来てくださる方もいますよ。

-お話をお聞きしていて、とても楽しそうにお仕事をされていると感じます。

ビール作りは楽しいです。楽しくないと続けられないですから。ごみ拾いなどの環境にやさしい活動も、難しく取り組むと続かないですよね。楽しく日常に取り入れて、続けていくことが大切だと考えています。一番うれしいのは完成したビールをみんなで飲む時。完成したビールは農家さんにプレゼントするんですが、お休みの日に、たまにお店に遊びに来てくれて、一緒に飲むのが楽しいです。ビールって、農家さんやお客さん、関わる人みんなが楽しそうで、いいんですよね。

-これから挑戦してみたいことはありますか。

まずは、今の取り組みを続けること。これからも、「こんなビール作って欲しい」という声をもらっていろんなビールを作りたいです。いずれは、麦の神戸産にも挑戦したいと考えています。お互いにメリットのある形でできそうな農家さんとのご縁があればやってみたいと思います。

-最後に、中村さんが普段の生活で取り組んでいる環境にやさしいことはありますか。

「ごはんは残さない」「お店で袋はもらわない」とかかな。皆さんが普段されていることくらいですよ。特別なことはしていないかもしれません。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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