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環境にやさしい神戸をつくる人たち

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/江副真文・株式会社ケルン提供

パンが環境問題や社会問題を
解決する仕組みをつくり、
ケルンが支援できる人をもっと増やしたいんです。

株式会社ケルン 代表取締役

壷井 豪 さん

神戸市内に直営8店舗を展開する地元に愛される老舗ベーカリー、株式会社ケルン3代目代表取締役。地元神戸との繋がりを大切にし、パン作りを通じた社会課題解決を目指し、エシカル消費型店舗の開発、食品ロス削減と社会的弱者支援につながる販売システムをはじめる。

株式会社 ケルン
https://kobe-koln.jp/

日々ケルン Instagram
https://www.instagram.com/hibikerun/

-食品ロス削減などに貢献する「ツナグパン」の取り組みについて教えてください。

2021年12月よりケルン全店で、食品廃棄ロスを削減する経済循環型のパンの新しい販売システム「ツナグパン」を開始しました。お客様が売れ残ったパンを購入することで、食品ロス削減と同時に社会的弱者への支援が可能となる仕組みです。売れ残ったパンの中から食中毒リスクが低く傷みにくいパンを10〜20個アソートし、製造翌日に販売。ツナグパン購入者にはケルン全店で使える木製の「エシカルコイン」(100円相当)をプレゼントします。併せて、支援先の福祉施設を介して同額のエシカルコインを支援対象の方にもお贈りします。

-2021年9月には、サステナブルベーカリー「日々ケルン」をオープンされました。

JR摂津本山駅近くにオープンした「日々ケルン」はお客様がベーカリーでお買い物を楽しむことで世の中に好循環を生み出すサステナブルベーカリーです。二つの特長があります。
一つ目は、近隣県産小麦を使用し、入荷する野菜にあわせてレシピをアレンジするなど、材料にこだわっている点です。「日々ケルン」では、フードマイレージ(食料の総輸送量・距離)の観点から兵庫県産や滋賀県産の小麦を使用します。さらに南淡路市の農家が栽培した高糖度トマトや神戸市内の不選別野菜を使うなど、味と見た目はもちろん、トレーサビリティ(食品の製造や加工工程を追跡可能にすること)にも配慮しています。入荷する野菜にあわせて、熟練のパン職人がレシピをアレンジすることで、お客様に様々なパンを楽しんでいただきながら食品ロスを解消します。
二つ目の特長は、社会課題解決に取り組む事業者と提携している点です。パンとともに、食品ロスを解消する不選別野菜や、海外のコーヒー豆生産者を支援するテイクアウトコーヒーを販売しています。パンとコーヒーの売上の一部は福祉施設の支援に活用します。
他にも、店舗内装において六甲山の間伐材の活用や、CO2ゼロの実質自然エネルギー100%の電力を導入しています。販売だけでなく、周辺の大学などと連携してSDGsを学べるセミナーや地元農家の野菜でつくる料理教室など、日々の暮らしの中で社会課題にふれられるイベントを定期的に開催しています。

-なぜ「日々ケルン」や「ツナグパン」を始められたのでしょうか。

私は9年前、32歳のときに事業承継しました。そのとき、今後長く選ばれ続けるパン屋になるためには、今の時代に必要なことを考え行動しなくてはと考えました。ケルンがパンを売ることで環境問題や社会問題を解決する仕組みをつくり、誰もが幸せになる持続的な社会に繋がる。パンに限らず、ケルンが支援できる人をもっと増やしたいと考えたんです。日々ケルンやツナグパンはそれ自体が目的ではなく、社会課題解決のためのスタートライン。集まった幅広いデータを活かし、次の展開を考えていきたいと思います。

-パン屋さんとして、食品ロスについてどのような想いを持っていますか。

一般的にパン屋さんでは、当日の売れ残りのパンを出来る限り再生加工した上で、それでも残った分は捨てています。私自身、修業時代から朝から仕込んだパンを自分でつぶして捨てる現状にとてもストレスを感じていました。どうすれば捨てずにすむのか、熟考した結果できた仕組みが「ツナグパン」です。
前日につくったパンが定価で売られていたら損をした気持ちになりませんか?でも、パンを食べるタイミングは当日だけではなく、購入した翌日以降に食べる事も多い。家庭で冷凍される方も増えていますよね。なぜ当然のように「前日に作ったものは安くあるべき」と考えてしまうのでしょうか?食品ロスだけでなく、こうしたさまざまな「当たり前」を疑い、新しい仕組みで消費者のリテラシー(物事を適切に理解し活用する力)を刺激することが大切だと思います。

-ツナグパン、日々ケルンを始めて、どんな効果がありましたか。

ツナグパンによって、パンの廃棄率は11%から2%に減りました。また、日々ケルンのオープン後、ケルン全体の売り上げも上がりました。新規のお客様も増え、多くのメディアで取り上げていただき、ツナグパンや日々ケルンが持つ可能性を感じています。お客様からは「こんな新しい取り組みをする会社だと思っていなかった」と反響をいただきました。
これからは社会問題に取り組む企業が応援される時代。自身の会社の課題解決を考えるだけではなく、事業に関わる全ての人を幸せにする仕組みを真剣に考える企業が求められていくと思います。

-環境にやさしい取り組みを広げていくには、どんなポイントがあるとお考えですか。

誰でも使えるわかりやすい仕組みが必要だと思います。ツナグパンを購入すると同封されている、木でできた地域通貨「エシカルコイン」は、誰もがわかりやすく安心して使える点を重視してつくりました。最終的に、手でつまめて財布に入り、お年寄りの方でも気軽に使える「木のコイン」です。
あとは、「がんばらなくても、いつの間にか社会貢献できる」仕組みをつくるべきだと思います。そこでキーになるのが「パン」。「パンを買う」という行動は日常生活の一部です。これを利用しない手はないと思っています。どこでも誰でも使え、パン業界だけでなく、すべての飲食業界にも使える仕組みをつくっていきたいです。

-壷井さんが社会課題に取り組む責任を意識したきっかけはありますか。

中学2年生のときに経験した阪神淡路大震災です。自宅が全壊しがれきの中から母に助け出されました。当時ケルンの社長だった父は、地震が起きてすぐ会社に車で直行しました。朝仕込みをしていた従業員が会社から出てきて「みんな無事です!」と伝えた瞬間、家族の前で今まで一度も泣き顔を見せたことが無かった父が泣いたんです。父の姿に、「社長としてやるべきこと」の責任を強く感じましたね。その光景が、私が社長になったとき鮮明に思い出されて。社長として、ケルンを存続させるために出来る限りのことを考え行動していかなければならないと覚悟しました。

-神戸市にはどんなポテンシャルがあると思いますか。

神戸市は立地に恵まれていると思います。周辺に自然あふれる但馬地域や淡路島、世界遺産のある姫路市もある。神戸市を中心に移動すれば、さまざまなアクティビティが楽しめます。好立地を生かしながら、神戸市としてSDGsやESG投資(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資)を積極的に進め、新しい企業が進出して、雇用が生まれる好循環をつくっていく。神戸市にはそれができると示していくことが必要だと思います。

-今後挑戦していきたいことを教えてください。

私の最終的な目標は、自分の手の届く範囲のものすべてを幸せにすることです。社会課題解決というと、日本全国や世界に手を広げてしまいがちですが、小さい規模感で仕組みをつくる方が地域の特性に合わせた取り組みができると考えています。今後もさまざまなステークホルダーと共に新しい仕組みを生み出していきたいです。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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