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食品ロス削減

最終更新日:2021年10月6日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/ 江副真文・竹下友里絵さん提供

環境問題やフードロスについて
詳しく知ってもらうことも大切ですが、
「美味しい野菜を食べる」ということが、
結果的に農家や環境のためになる仕組みになればいいですね。

八百屋のタケシタ 代表
(タベモノガタリ株式会社)

竹下 友里絵 さん

神戸を拠点に規格外農産物のフードロス削減に取り組み、
新鮮野菜のローカル流通を目指す
「八百屋のタケシタ」を運営するタベモノガタリ株式会社 代表。
世界の一方で食べられずに死んでいる人がいるのに
世界のもう一方では大量の食品が捨てられている、
食の矛盾に問題意識を持ち、大学卒業と同時に起業した才女。

web site
https://www.yaoyanotakeshita.com/
Instagram
https://www.instagram.com/yaoyanotakeshita/

YouTube kobecitychannel KOBE STOP THE FOOD LOSS
https://youtu.be/d2jRQj4sRKo

 

―竹下さんは、八百屋のお仕事の中で、環境問題を意識することがありますか?

農業に近いところにいるので、環境の変化をとても感じます。例えば、冬野菜のブロッコリーを12月から3月まで採り続けるためには、少しずつ植え付けの時期をずらして、3ヶ月間収穫する方法を採ります。でも今年の冬は、2月に採れるはずのブロッコリーが、なんと12月末に収穫されたんです。これって明らかに暖冬の影響ですよね。こんな現状を目の当たりにすると、今までと状況が変わってきていることを実感します。
農薬が環境問題の原因のひとつになっていることも知りました。本来、土は木以上に二酸化炭素を保有する力があるんですが、農薬を使うと、土がカチコチになって二酸化炭素を保有できなくなるんです。
ただ、そんな影響があるとわかっていても、今の流通の中では農薬を使わざるを得ない。もちろん、使わざるを得ない状況も分かるけれど、それでも有機や減農薬で頑張ろうとしている生産者さんがいるなら、そういう人の野菜を仕入れたいという意識に変わってきました。

―竹下さんが取り組むフードロスは、どんな環境問題に通じていますか。

フードロスはいろいろなところで起きていますが、例えばスーパーや一般家庭から出るフードロスは環境負荷を高めます。生ごみになる食品は水分量が多いため、燃やすために大きなエネルギーが必要となるからです。

―八百屋のタケシタとして、力を入れている環境への取り組みを教えてください。

事業では、有機野菜を作っている生産者さんの野菜を積極的に仕入れて販売していくことですね。それと、どうしても売れ残り野菜が出てしまうのですが、それを捨ててしまうのはもったいないので、事務所にコンポストを設置して、堆肥作りを始めました。

―有機野菜を積極的に扱っているということですが、具体的にどのような動きなのでしょうか。

有機に絶対こだわっている訳ではないのですが、選ぶことができるなら仕入れています。農家さんが農薬を使う理由は「虫食いを絶対に付けたくない」、「見た目をきれいにしたい」からなんですが、うちは規格外野菜を売っているので、「見た目は別にどっちでもいいですよ」、「多少傷付いてても、虫食いがあってもいいですよ」と言えるんです。タケシタがそう言うなら「多少減農薬してもいいか」って考えてくれたらいいなと思っているんです。

―タケシタならではの手法で減農薬に導いていくのは面白いですね。もうひとつの取り組みである「コンポスト」についても詳しく教えてください。

売れ残った野菜は、まだ食べられるものは「おつとめ品」として販売しているのですが、鮮度が落ち、カビが生えたりしたものは、事務所に設置したコンポストに入れるようにしています。野菜を入れてクワでかき混ぜて、約1週間で土に還ります。今後、その土は農家さんに使ってもらおうと考えています。

―環境に配慮した「フードマイレージ」も意識されていますね。

フードマイレージとは生産する場所から消費する場所までの輸送距離をいいます。例えば、はるか遠方から長時間かけて運ばれる野菜は、輸送エネルギーやコストが高くなりますが、神戸の市街地から30分以内の距離で採れる野菜ならコストも安くて鮮度もいい。「地産地消」の良さはこれだな、という考えにたどり着きました。

―フードマイレージも意識した「神戸市内でのローカル流通」ということですが、神戸で事業をやろうと思ったのはなぜですか?

神戸出身なので、「地元だから」というのが一番大きな理由です。起業する際、いろいろ調べていると、神戸でぶどうやなしなど、様々な果物が採れると知りました。そこでまず、神戸市内のケーキ屋に売る加工用果物の流通をしようと考えたんです。でも、農家さんと関わっていくうちに、野菜にも多くの課題があることを知り、八百屋という業態を選びました。
結果的に、神戸は他地域と比べて、八百屋には好条件な環境だと分かってきました。畑はたくさんあるし、大きな都市があるし。神戸市内には約3,000人もの農家さんがいます。野菜は何を作ってもおいしいし、よっぽど難しい品種じゃなければ大体のものが作れる環境だったんです。

―事業をされていて、難しいと思うことはありますか?

時々、メディア取材を受けるのですが、メディアのイメージで、タケシタは規格外やフードロス関連の野菜しか扱っていないと勘違いされることがあります。「規格外野菜」、「フードロス」といった言葉は、消費者の方にはとても受けるのですが、農家向けの言葉じゃないんです。農家さんから「規格外野菜を出そうと思って作っているわけではない」「安いものを安く売るのは簡単」と言われることもあります。難しいこともありますが、八百屋の役割は、「いい野菜はいい値段で売る」ことが一番大切だなと思っています。

―八百屋のタケシタのお客さんは、フードロスや環境問題などの社会課題を意識して買う方が多いのでしょうか?

環境問題を考慮して有機野菜を選んでくれる人が増えたらいいなと思いますが、現実は難しいですね。意識高く選んでいる人は約2割くらいです。そう考えると、うちの野菜を買う理由は、「美味しいから」「体にいいから」といった単純な理由でいいと思うようになりました。

―選ぶ理由は、自分のためでいいということですか?

フードロスや環境問題のことを詳しく知ることも大切ですが、それ以外の人を巻き込もうと思ったら、「フードロス」という言葉は、逆に変な敷居になっていると思うんです。
事業を通してそうした気づきがあったので、ここ半年でお客さんへの伝え方を変えました。事業を始めた当初は「規格外野菜」「フードロス」を前面に打ち出していましたが、最近は「神戸の野菜はおいしいですよ!」と伝えるようにしています。

―伝え方や仕組みを工夫して、より多くの人の行動を変えていくということですね。

私は、もともと国連やJICAに興味があって、ビジネスではない世界でやっていこうと思っていたんです。それでもやっぱりビジネスとしてやろうと決めた理由は、自分の欲求を満たすための消費行動が、結果的に誰かのためになるとか、社会が良くなっているとか、そういう仕組みを作りたいと思ったからなんです。それはNPOでは難しくて、ビジネスの世界でこそ実現できるんだなと考えました。
八百屋で言えば、環境にいいものを買いたいから有機野菜を選ぶというのもひとつですが、単純にこの野菜が美味しいから買うということが、結果的に農家のため、環境のためになる仕組みになっていたらいいんじゃないかと考えています。

―一方で、現状を伝える場も大切にされていますよね。

インスタライブや講演会など、伝える場を持たせてもらえることが増えました。今まで売り場で全部伝えようとしていたんですけど、伝える場所と売る場所を分けて、伝わる人に伝えていこうと考えています。

―環境にやさしいアクションを始める、続けるコツは何だと思いますか?

私は全員が100%を目指す必要はないと思っています。タケシタとしてもよく「食卓の50%がタケシタの野菜であって欲しい」と伝えています。もちろんたくさん買ってくれたら嬉しいですが、50%ぐらいなら無理なく続けられると思うんです。買う野菜のうちの50%は「地元の旬のものを買おう」や「がんばっている農家のものを買おう」と考えてもらえたらいいなと。ずっと完璧を続けるのはしんどいですからね。

―竹下さん自身が、環境を意識して生活していることはありますか?

できるだけマイボトルを持ち歩くようにしたり、買い物してもレジ袋をもらわないようにしています。意識し始めたのはここ数年ぐらいからですよ。

―竹下さんにとって、一番初めのアクションは何だったのでしょう?

スターバックスでコーヒーを買う時に、マグカップを選ぶようになったことかな。自分からオーダーしないとマグカップにならないですよね。

―できることからやってみる、って大切なことですよね。竹下さんがこれからチャレンジしたいことはありますか?

直近では、神戸の野菜をどこにいても買える仕組みを作りたいと思っていて、積極的に食品スーパーとの連携を始めました。農家さんとの契約栽培も始めようと考えています。
よく農家さんから「何を作ったらいいと思う?」っていう質問を受けます。私はお客さんに近いところにいるし、その地域で何が売れているのか分かっているので、契約栽培にすれば「次はこの野菜をこれだけの量作ってください」という話ができます。契約栽培によって、これまで以上にマーケットと農家をつなぐ役割を担っていきたいです。
そして、今後は二次流通にも力を入れたいなと。飲食業界と連携して、売れ残った野菜をもう一度流通させる仕組みを作っていけたらと思います。
いいビジネスモデルができれば、将来的には他の都市にも広げていきたいですね。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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