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脱炭素

最終更新日:2023年2月25日

神戸ワインを未来に繋ぐため。
ぶどうの枝で作るバイオ炭で脱炭素に貢献

一般財団法人神戸農政公社 ワイン事業部  山口由葵さん

 

みなさんは神戸市がワインの産地であることを知っていますか。西区にある神戸ワイナリーでは、神戸産ぶどうを100%使い、栽培から醸造まですべて神戸で行う「神戸ワイン」が造られています。今その神戸ワインで、「脱炭素」につながる環境にやさしい取り組みが始まりました。ワインで脱炭素とは、一体どんな取り組みなのでしょうか。プロジェクトを進める神戸農政公社の山口さんにお話を伺いました。

環境意識が高まるワイン業界。剪定した「ぶどうの枝」に注目

昨今農業の分野では、環境に配慮する動きが拡がっています。ワイン業界でも「自然派ワイン」と言われる、自然にできたものを自然に発酵させるワインの需要が高まっていて、有機農業でつくられたぶどうを使ったワインが増えています。そうした社会的な背景を受けて、山口さんたちは神戸ワインでも環境に配慮した持続可能なワイン造りができないか考えていました。そこで見つけたのが、剪定したぶどうの枝を「炭」にする取り組みです。ぶどうの産地であるフランスや山梨県で盛んに行われていると知り挑戦をすることに。もともと、ぶどう栽培の過程で出る枝の処理が課題だったと山口さんは言います。

山口さん

ぶどうは4月頃に新しい枝が伸び始め、5月下旬から6月上旬に開花します。開花が終わると、どんどん実が大きくなり、9月頃収穫を迎えます。ぶどうを収穫した後は1年間で伸びた枝を剪定します。一本一本手作業なのでとても大変です。しかしそのまま放置すると病気のもとになるため、残すことなく切る必要があります。神戸ワインのぶどうを栽培する農地の面積は甲子園球場が約11個分(40ヘクタール)。そこから毎年およそ100トンもの剪定枝が出ます。これまでは燃やすか、産業廃棄物として処理していました。

ぶどうの枝で作る炭で、空気中の二酸化炭素の増加を抑える

地球温暖化を食い止めるには、大きな原因である二酸化炭素排出量を抑える必要があります。そこで注目されているのが、木材や竹などを原料に作る炭(バイオ炭)です。通常、空気がある状態で木を燃やすと、木の中の炭素と空気中の酸素が反応して二酸化炭素が出ます。燃やさない場合でも、微生物などに分解され、やがて二酸化炭素が大気中に出てしまいます。一方、「高温」かつ酸素濃度が低い「酸欠状態」で木を加熱すると炭になります。炭は微生物などに分解されにくいため、燃やすことで二酸化炭素として大気中に出るはずだった炭素を閉じ込めることができます(これを「炭素貯留」と言います)。神戸ワインの農地で出た枝をすべて炭化させると、1年におよそ25.6トンの二酸化炭素を貯留できます。

ぶどう栽培にも嬉しい効果

バイオ炭は、農地に撒くことで炭素を閉じ込めるだけでなく、土壌改良にも効果があります。

山口さん

神戸の土の多くは粘土質で、水はけが悪いのが特徴です。ぶどうの生育には乾燥した土の方が適しているので、水はけはぶどう栽培にとって大きな問題でした。バイオ炭には小さな穴がたくさんあり、土の中に入れると隙間ができます。その隙間によって水の通り道ができて水はけが良くなると言われています。また、微生物が住む場所になることや土の酸性化を抑えることができるので、ぶどうの生育に良い影響を与えてくれるのではと期待しています。

手順は簡単。バイオ炭の作り方

では、どのようにしてバイオ炭は作られるのでしょうか。バイオ炭づくりを見学するため、神戸ワイナリー内の農園へ向かいました。作業現場に行くと、神戸ワイナリーの敷地内にある兵庫県立西神戸高等特別支援学校の学生さんが、枝を短く切る作業を手伝っていました。支援学校の学生さんたちとは、日頃からぶどうの収穫などで交流があるのだそうです。
積み上がった枝の隣で炭化作業が行われます。バイオ炭を作るための装置である無煙炭化器は、底が空いた、ステンレス製の器。炭化の条件である「高温」と「酸欠状態」を生み出す特別な形をしています。作業の手順は、無煙炭化器を土の上に隙間なく設置し、木の枝などを重ねて燃やすだけ。隙間なく燃やすことで、下に積み重なる枝が炭になります。

山口さん

枝の重さは炭にすることで約15%にまで減ります。1日7時間でおよそ700kgの枝を炭にすることができます。炭化作業は火がついてしまえば、作業自体は簡単にできますよ。

契約農家さんと共に挑戦。課題は時間がかかること

今回の取り組みは、神戸ワイン専用のぶどうを作る5つの契約農家さんが協力しています。神戸ワイナリーで無煙炭化器の使い方の講習会を開いた後、無煙炭化器を無料で貸し出し、各農園で炭化作業を行っています。今後は出来たバイオ炭を農地に撒いて、ぶどうの生育にどのような影響があるかを調べる予定です。炭化作業を実際に行った契約農家さんたちはどんな感想を持ったのでしょうか。神戸市西区にある印路生産組合代表の萩原重実さんに話を伺うと、作業には課題もあると教えてくださいました。

萩原さん

これまでは枝をまとめて1つの場所に貯めておき、1日で一気に燃やしていました。ふもとに住宅地があるので、煙が風に乗って住宅地まで届かないかと毎年気を使う作業です。今回炭化作業をやってみましたが、枝に水分が残っているため少なからず煙が出てしまいます。また、作業は数日間に渡り、燃やすよりも時間がかかります。冬は春に向けての準備作業がたくさんあるので、炭化作業に時間がかかるのは課題です。今回作った炭は今年植え替えた木の近くに撒いてみようと考えています。

地球温暖化や異常気象、自然に左右される厳しい現実

萩原さん

台風や大雨などの異常気象の影響で不作が続いています。豊作だった年は最近でいえば2016年。それ以降はいい年がありません。2021年の夏は台風が去った後、10日以上雨が続き、収穫間近のぶどうが全てだめになってしまいました。今年は順調と思った年も、収穫前に悪天候が続けばだめになってしまう。環境に左右される厳しい仕事です。

山口さん

台風や大雨にさらされたぶどうは、水分を含んで糖度が下がり、病気になりやすくなってしまいます。ぶどうが不作だとワインの生産量の低下にも直結します。また、地球温暖化による気温の上昇もぶどうの出来に影響が出ます。気温が高くなると、色づきが悪くなり糖度が下がってしまいます。ある程度の暖かさも必要ですが、夜の気温が下がらないのが一番の問題です。環境に配慮した栽培は手間がかかりますが、次世代へ神戸ワインの歴史や農業の文化を残していくために避けては通れない道だと思います。

バイオ炭を当たり前に。外へも発信していきたい

山口さん

引き続き無煙炭化器を契約農家さんに貸し出して、バイオ炭を定着させていきたいと考えています。また、外に向けて発信する活動にも力を入れたいです。炭化作業の現場を見学してもらう、一般のお客さん向けの環境学習のイベントができればと考えています。炭焼きをしながら焼き芋をしたり、ワインを飲みながら火を眺めたりするのも良いですね。あとは、バイオ炭を撒いた畑のぶどうだけを使ったワインを造るのも面白いと思います。

取材の後、神戸ワイナリーの中にあるワインショップに立ち寄ると、さまざまな種類の神戸ワインが並んでいました。どのワインにも生産者のみなさんの努力が詰まっているのだと、改めて実感します。地球温暖化によって、これまで当たり前に食べていたものが食べられなくなってしまうかもしれない。まず私たち消費者にできるのは、生産現場の実情を知り、環境問題に対する取り組みを応援することではないでしょうか。

神戸ワイナリー

Web site
https://kobewinery.or.jp/

一般財団法人神戸農政公社

Web site
http://kobenoseikosha.jp/

 


この取り組みは、神戸市が実施しているKOBEゼロカーボン支援補助金制度を活用しています。

【KOBEゼロカーボン支援補助金制度】
2050年二酸化炭素排出実質ゼロの実現に向け、神戸の豊かな自然や環境を活かし、自由な発想による先進的で創造性に富んだ、地域貢献につながる取組みにチャレンジする市民、団体、法人などを積極的に支援する神戸市の補助金制度です。
https://www.city.kobe.lg.jp/a36643/zero_carbon_aid.html

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