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生物多様性

最終更新日:2022年10月10日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/江副真文

人間の手で拡げた外来生物は、
人間の手でしか解決できません。

特定非営利活動法人 生物多様性を守る会  理事長

大鹿 達弥 さん

神戸市立須磨海浜水族園で魚類飼育を約15年間担当し、広報戦略担当や飼育教育部長を務めながら、四国水族館の計画運営に参画。その後、マリンピア神戸さかなの学校(神戸市立水産体験学習館)の校長就任や外来生物問題に取り組む「特定非営利活動法人 生物多様性を守る会」を設立するなど、生物に関わる様々な企画や運営に携わる。

web site
特定非営利活動法人 生物多様性を守る会
https://www.kas-lab.org/
外来生物展示センター
https://www.kas-lab.org/gairai

―外来生物展示センターについて教えてください。

私が理事長を務める「生物多様性を守る会」が神戸市から委託を受けて運営しています。専門家による解説を聞きながら、外来生物や有害鳥獣の生きた個体やはく製を見て体験型学習ができる施設です。生きた個体を主に飼育している「生物飼育棟」が2022年8月にオープンし、さらに2022年の冬には、外来生物問題を深く学ぶことができる「展示ホール」も完成予定です。

―外来生物展示センターにはどのような目的がありますか。

神戸市内の外来生物の問題を市民に伝えることを目的として作られました。外来生物の問題を伝える上で難しいのは、人々の暮らしに直接影響しない点です。環境活動をしている人や釣りをする人は身近に感じても、ほとんどの人の日常生活に影響がないため、どうしても遠い存在に思えてしまう。この施設が、市民と外来生物の架け橋となり、市民が何かの行動に移すきっかけになればうれしいですね。

―外来生物展示センターにはどのような人が訪れていますか。

オープン前は、外来生物に特化した施設に人が集まるのかと心配していましたが、予想を超えて多くの方にご来場いただいています。中でも特にご家族連れが多いですね。興味がある親が子どもに外来生物を教えるためだったり、逆に親は興味がないけど、子どもに行きたいとせがまれて来たなど様々なケースがあるようです。

―外来生物は何が問題なのでしょうか。

生命力の強い外来生物が、日本古来の在来種生物を攻撃してしまい、生態系を脅かすことが一番の問題です。今は人の生活に関係がないように見えますが、今後は人の生活にも直接影響が出てくるでしょうね。在来種で食用にしている魚が減って食べられなくなったり、アライグマが畑の農作物を荒らし、自分の好きな野菜が買えなくなる未来が来るかもしれません。

―外来生物が広がった原因は何ですか。

日本に食用として持ち込まれた生物の野生化や、ペットとして持ち込まれた生物が自然環境に放されるなど、様々な形で外来種が拡がっていきました。実は、外来生物が問題視され始めたのはここ20年くらいの話で、それまで長い間、外来生物を自然に放すことが悪いという人はいなかったし、誰も止めませんでした。例えば、アメリカザリガニは今になってやっと特定外来生物に指定される見込みですが、私が子どもの頃から自然環境にいて、ずっと放置されていました。こうした問題が明らかになった今でも、外来種である植物を花壇に植えてしまい、一気に周辺に繁殖してしまったという話を聞きます。外来生物の問題を知らずに拡げてしまった人間の「無知」が一番の原因ではないかと感じています。

―外来生物問題に対して、私たちはどんな行動すればよいのでしょうか。

人間の手で拡がったものは、人間の手でしか減らすことはできません。ただ、市民が直接駆除することは難しいので、まず外来生物について知ってもらうことが重要だと思います。外来生物の何が問題で、どの種が外来生物なのか。子どもの頃から知識を身に付けておくことで、将来の行動が変わります。外来生物展示センターが知る機会を提供できる場になればいいですね。
外来生物自体に罪がある訳ではありません。駆除するだけではなく、活用方法を考えていく必要があります。「食べる」という行為も活用の一つです。先日のオープニングイベントでは、アメリカザリガニを来場者のみなさんにご試食いただきました。泥臭いイメージがありますが、実際食べてみるとそんなことはなくエビに近い味です。こんな風に活用方法を考えていけば、ビジネスにつながるかもしれません。

―須磨海浜水族園で長年飼育員を務められた大鹿さんですが、なぜ外来生物問題に取り組む「生物多様性を守る会」を立ち上げたのでしょうか。

須磨海浜水族園を退職後、飼育員のスキルを活かして、社会に貢献できることはないか考えていました。その時、生物多様性を脅かす「外来生物」に興味を持ち、長年、生物に携わってきた人間として何かできないかと考えるようになりました。知り合いにそんな話をしたところ、とても興味を持ってくれ、「生物多様性を守る会」を立ち上げました。メンバーは現在10人いますが、実は生物の関係者は私を含めて2人だけ。他のメンバーはIT関係、イベント、ものづくり、お笑い芸人など、今まで生物に関係のなかった分野の人たちです。先日の外来生物展示センターのオープニングイベントは、イベント会社で仕事をするメンバーに取り仕切ってもらいました。お笑い芸人のメンバーは、外来生物を獲って食べるという芸風で、日々、外来生物について発信を続けています。今後も、多様な職業の人がそれぞれの専門分野を活かし、外来生物に対して、何ができるか考えていきたいです。

―外来生物問題を伝える際、須磨海浜水族園での経験が活かされていますか。

外来生物展示センターで大切にしているのは、生きた外来生物を見てもらうことです。絵や説明文だけでは頭に入ってきません。実際に生き物を見たり触ったりしてこそ、理解が深まると考えています。水族館に行ったことがない人や嫌いな人はなかなかいないですよね。水族館は誰もが受け入れやすいキーワードだと思います。水族館の要素をうまく取り入れて、外来生物を発信していきたいですね。

―外来生物問題に取り組む上で神戸のポテンシャルを教えてください。

神戸市は港湾都市なので、他の都市に比べて外来生物にさらされる危険性が高く、自然が豊かなため外来生物の問題が深刻です。一方で人口150万人都市なので、対応できるポテンシャルも大きいと思います。

―これからやりたいことはありますか。

神戸市内の外来生物の問題を解決する仕組みをつくりたいですね。外来生物問題の解決の先駆者として、神戸市を全国のモデルにしたいと思います。
例えば、市民活動の一環で外来植物を駆除するイベントや、区役所内に外来生物を知ることができるコーナーがあってもいいかもしれません。市民がもっと外来種を身近に感じ、知ることができるアイデアを考えたいです。

―最後に、大鹿さんが普段の生活で取り組んでいる環境にやさしいことはありますか。

具体的に何か行動している訳ではないのですが、生物や環境問題の勉強はしています。人の話によく耳を傾けたり、本を読んだりすることはとても大切ですね。 様々な知識を得ることで、日常生活の小さな選択も変わってきます。何事も「無知」でいることが一番問題なのだと思います。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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