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生物多様性

最終更新日:2022年8月6日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/中川聡子

使い捨てプラスチックの廃止や環境保全活動への支援。
動物の住む環境を守るのは動物園の責務です。

神戸どうぶつ王国 園長
(株式会社どうぶつ王国)

佐藤 哲也 さん

ポートアイランドにある「花と動物と人とのふれあい共生」をテーマとした施設「神戸どうぶつ王国」の園長。国内外の野生動物・環境の保全に尽力している。

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https://www.kobe-oukoku.com/

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-神戸どうぶつ王国では、生物多様性や環境の保全に力を入れているそうですね。

はい、神戸どうぶつ王国では主に5つ活動に取り組んでいます。①国内希少種の保全、②使い捨てプラスチックの廃止、③ボルネオの環境保全、④ツシマヤマネコの保全、⑤ユキヒョウの保全 です。

①国内希少種の保全

まず、国内希少種の保全として、「ミヤコカナヘビ」と「アマミトゲネズミ」を園内で飼育し、「生息域外保全」を行っています。「生息域外保全」とは生息地域の外で行う保全活動のことで、生息地域内での保全が困難な場合に行われます。現在、両種とも繁殖に成功し、将来は野生復帰を視野に入れています。ミヤコカナヘビは希少種保全の普及啓発のため、園内で展示もしています。こんな小さな動物が絶滅の危機にあることをお客さんに知ってもらいたいんです。昔、宮古島に住んでいたというお客さんが来られた時は「30年前は島にいっぱいいたのに、最近は見かけなくなった。まさか神戸で出会えるとは思わなかった。」とうれしそうに話してくださいました。

②使い捨てプラスチックを廃止

園内のレストランで使用している使い捨てプラスチック製品を、すべて紙や木の製品、または洗ってくり返し使えるステンレス製品などに切り替えました。ショップではレジ袋を有料化し、オリジナルエコバッグやレジ袋の売上の一部は、野生動物の故郷を守る活動に役立てています。海洋プラスチックごみをはじめとしたプラスチックごみは、生態系に大きなダメージを与えています。人間がいない海外のジャングルでプラスチックごみが見つかることもあります。動物園の責務として、使い捨てプラスチックが自然環境に広がるのを防がなければならないと考えています。

③ボルネオの環境保全

園内の自動販売機の売り上げの一部をマレーシアのボルネオ島の環境保全のために寄付しています。分断された森を結びつける「緑の回廊プロジェクト」や「ボルネオゾウ」のレスキューなどに役立てられます。ボルネオ島では開発が進み、森の減少が深刻です。皆伐されて、木が一本もない土地が地平線まで続いている場所もあります。実はボルネオの森の減少には、日本人が大きく関わっているんです。例えば、建築資材として木材を最も持ち出しているのは日本人。タイヤなどに使うゴムは、森を潰して植えたゴムの木が由来です。私たちはその恩恵を受けて、家に住み、車に乗っています。日本人として、ボルネオの森に恩返しをしなければならないと考え、取り組みを始めました。開発が進む一方で、ボルネオの森には素晴らしい自然がまだたくさん残っています。オランウータンの親子や、目の前の川を渡っていくボルネオゾウにも出会いました。辺り一面には、縄文杉のようなびっくりするくらい太い木が生えています。本当に感動しますよ。日本では味わえない豊かな自然環境を、地球人として守らなければならないと思います。

④ツシマヤマネコの保全

園内のレストラン「やまねこキッチン」で「ツシマヤマネコ米」を使用した料理を販売し、「ツシマヤマネコ」の保全に協力できる仕組みを作りました。
長崎県の対馬にだけ生息するツシマヤマネコは、絶滅危惧種に指定されています。数が減った最大の原因は、山林や田んぼの減少などによる生息環境の悪化だといわれています。ツシマヤマネコは田んぼの周辺に生息しており、田んぼにやってくる生き物を食べます。対馬の農家さんは、田んぼの生き物を守り、ツシマヤマネコの生息環境を保全するため、減農薬によるツシマヤマネコ米の栽培に取り組まれています。対馬はユーラシア大陸に近く、大陸からくる害虫の被害が避けられません。減農薬ではどうしても害虫被害によって収穫量が下がるため、販売価格も高くなります。消費者が対馬のお米を食べ続けなければ、農家さんは減農薬栽培を続けられず、ツシマヤマネコが生きていける場所が減ってしまいます。
園内でお客さんがツシマヤマネコ米を食べることで、お米の需要が増えて田んぼが増えるとツシマヤマネコのエサが増え、ツシマヤマネコの保全につながります。この流れを私たちは「生物多様性循環の輪」と呼んでいます。対馬の農家さんは、島の環境保全のために減農薬でお米を作り続けています。これからも協力を続けていきます。

⑤ユキヒョウの保全

ユキヒョウの生息地域であるキルギスの人たちが作った小物を、園内のショップでフェアトレード※で販売し、キルギスの地域経済活性化とユキヒョウの保全研究・調査につなげています。キルギスでは、ユキヒョウは家畜を襲う外敵と考えられ、駆除されてきたため数が減少しています。ユキヒョウを守るためには、現地の人々の意識を変える必要があります。そこで、フェアトレードを通してキルギスの地域経済を豊かにし、ユキヒョウが貴重な存在であることを理解してもらおうと考えています。
※フェアトレードとは、発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引することで、生産者の持続的な生活向上を支える仕組みのこと。

-どうぶつ王国には幅広い世代が来園されていますね。園内で特に工夫していることはありますか。

生息環境を再現した展示方法「ランドスケープ」を取り入れ、植物園や公園としても楽しんでいただけるようにしています。動物の展示に植物は欠かせません。現地の植物に近い種類を植えて生育環境を再現し、檻は一切使わず、動物をより近くに感じられるようにしています。こうした展示方法は、動物の福祉にもつながります。さらに今は「ランドスケープイマ―ジョン」といって、生息環境の中入り込んだような環境作りを計画しています。私がボルネオの森で得られた感覚を再現したいんです。園内表示は、子ども向けの言葉で書いていません。動物園は大人でも楽しめる場所であるべきだと考えているためです。

-佐藤さんの動物への愛が伝わってきます。動物にはまったきっかけはありますか。

小学校2年生のときに見た「子鹿物語」という映画がきっかけです。少年と鹿の物語なのですが、子ども心にとても感動して。今でもストーリーを鮮明に覚えているくらい、衝撃でした。それからいろいろな動物の本を読むようになりました。小学校4年生の文集では、すでに将来の夢に「動物の仕事をする」って書いていましたね。

-兵庫県内、神戸市内ではどんな動物に出会えますか。

兵庫県で言えば、イヌワシですね。今年、兵庫県に生息するイヌワシが23年ぶりに繁殖したと聞いて、5月に但馬の上山高原に調査に行きました。イヌワシは崖に巣を作るので、腰にロープを括り付けて断崖絶壁を下りて巣を確認しました。巣を覗くとイヌワシのヒナがいて、そこにタイミングよく親が帰ってきたんです。親子の姿にすごく感動しました。長年動物に携わる仕事をしていますが、未だに感動する一瞬を得られることがうれしいですね。イヌワシの研究者でも親子の姿は見たことがないと言っていて、とても貴重な体験でした。神戸市内にはさまざまな鳥がいます。須磨海岸はアジサシの生息地です。六甲山は野鳥の宝庫。オオルリ、キビタキ、サンコウチョウ、ヤマドリ。クマタカも見られますよ。

-これから挑戦してみたいことはありますか。

神戸どうぶつ王国で使うエネルギーを、すべて再生可能エネルギーに変えたいと思っています。お客さんが通る通路に太陽光パネルを設置し自家発電。それでも賄えない分は再生可能エネルギー由来の電気を使用したいと考えています。他には、園内からごみを出さない仕組みを作りたいです。動物の残渣や糞尿など、園内で出る燃えるごみを肥料化し、土として使えるようにできればと思います。

-最後に、佐藤さんが普段の生活で取り組んでいる環境にやさしいことはありますか。

ごみの分別とハイブリット車に乗っていることと、物持ちがいいことですね。車はインフラが整えば、なるべく早く電気自動車に変えたいと思っています。物持ちの良さといえば、最近、長年愛用している服の袖に穴が開いて。穴が開いた部分を切って着ていたら、社員に驚かれました。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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