GO GREEN KOBE 環境にやさしい神戸をつくる。

Articles

循環型社会脱炭素

最終更新日:2024年1月11日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/江副真文・株式会社くさかんむり提供

材料のすべてが自然に還る“茅葺き”。
自然環境を壊さず守る建築の仕組みを、未来につなぎたいと思いました。

株式会社くさかんむり

福山夏映さん
小西稀一さん

神戸市北区淡河町を拠点に活躍する茅葺き職能集団。伝統的な茅葺きの修復から、店舗装飾や芸術など現代的な茅葺きへの挑戦、茅葺を広く知ってもらうためのワークショップやセミナーを開催。

website
https://kusa-kanmuri.jp/

Instagram
https://www.instagram.com/ogo_kusakanmuri/

―くさかんむりと、お二人のお仕事について教えてください。

福山さん
くさかんむりは、代表の相良育弥さんが神戸出身の親方のもとから独立した際、神戸市から「北区淡河町は茅葺き民家が多く残っているが、職人がいなくて困っている。」という相談を受け、「淡河かやぶき屋根保存会くさかんむり」を立ち上げたのが始まりです。2019年に法人化し、現在は13人が働いています。事業としては、伝統的な茅葺き屋根の葺き替えや修繕、芸術分野や店内装飾など新しい分野への茅葺き技術の活用、幅広い世代に茅葺きを知ってもらうためのワークショップやセミナーを開催しています。私はデザイン担当として、店内装飾などの企画制作をしています。最近ではSDGsへの関心の高まりで、企業などから「茅を使って、企業のコンセプトを象徴するモニュメントを制作してほしい」といった依頼が増えました。

小西さん
私は、職人見習いとして4年目になります。修業期間は最低5年で、親方である相良さんや近隣の同業の親方たちから認められると、一人前の職人になれます。

―神戸市には、茅葺き民家が多く残っているのですね。市内の茅葺きの現状を教えてください。

福山さん
神戸市は茅葺き民家が全国的に見て多い地域です。数は、世界遺産の白川村(白川郷)より北区のほうが多いんですよ。理由は諸説ありますが、火山がある地域には火山灰により炭素を多く含んだ固い茅が育つと言われていて、神戸にもその土壌があり良質な茅が採れたとも考えられています。現在神戸市北区内の茅葺き民家は700戸弱で、その約9割は葺き替えのコスト面や防火面を理由にトタンで覆われています。残りの約1割は茅葺きが見えた状態で残っています。最近では茅葺きの価値が再認識されて、トタンを剥がして茅葺きを見せる家も増えています。制度上、市街地では新たに茅葺きを建てるハードルは高いですが、農村部では新築も可能なことが多いです。

―SDGsの関心が高まる中で茅葺きが再注目されているそうですが、茅葺きはどのような点が環境にやさしいのでしょうか。

福山さん
環境にやさしいポイントは3つあります。1つ目は、ごみが出ない点です。一般的な建物は、解体するとすべて廃棄物になってしまいます。しかし茅葺きの場合、使う材料は草原に自生するススキやイネ、竹などの自然物のみで、解体したらすべて土に還すのでごみがほとんど出ません。2つ目は、つくる過程でのCO2の排出量がとても少ない点です。茅をトラックで運ぶ以外は、ほとんど手作業で進めます。茅刈り作業では手刈りか小さな機械を使います。茅を束ねる作業や施工はすべて手作業です。茅の束を屋根に運ぶ際は、クレーンなどは使わず、屋根の上にいる職人へ向かって投げて渡します。投げる作業はコツを掴むのが難しいのですが、上手な職人は相手が受け取りやすいように軌道もコントロールしてくれるんですよ。大きな機械を使う一般的な工事現場と違い、茅葺きの現場は本当に静かです。
3つ目は、茅葺きによって草原環境がより豊かになる点です。例えば、茅が育つ草原は、茅を刈り取り、年に1回野焼きでリセットすることで、森林にならずに草原として維持されています。カヤネズミなどの草原に棲む生き物や、貴重な植物の住処を守っています。茅葺き屋根を好んで棲む生き物もいますよ。環境を破壊して建物を建てるのではなくて、人間の住処を作りつつ、環境を守り生きものの住処も作るという仕組みが現代建築にはない、すごいところだと思っています。

―お二人は、どのような経緯で茅葺きの世界へ飛び込んだのですか。

福山さん
建築やものづくりに関心があって、大学では都市計画を専攻していました。授業で渋谷など大都市の再開発を学ぶ中で、「自分の知らないところで大きなものが建ち、それがいつの間にかなくなって、自分の知らないところに運ばれ、ごみになっている現状」に違和感を持ちました。建築はやりたいけれど、いつかごみになってしまうものを作りたいとは思えなくて。「じゃあもう、つくらなくていいじゃん。」と投げやりな気持ちになっていたときに、茅葺きに出会いました。人が暮らすために自然を犠牲にするのが大前提になっている建築に違和感があったのですが、茅葺きの場合は、人間と自然のWINWINな関係が成り立っています。その仕組みを知って、本当に感動して。将来も作り続けていくために、屋根だけでなく、茅葺きの技術を使った新しいものを提案し発信して、拡げていきたいと思いました。

小西さん
小さいときから海の生き物が好きだったので、大学は海洋生物学を専攻しました。将来的には環境保全に関わる仕事がしたいと思って就職先を考えていました。ただ、調べていくと、環境保全の効果は人間社会へすぐに還元されないため、お金を稼ぐのが難しいと分かり、納得いくような進路が見つけられませんでした。大学を卒業してから少し経ったあるとき、くさかんむりの存在を新聞記事で知りました。記事には「全て土に還る素材でできているのでごみが出ない。草原とそこに住む生態系の保全にもつながる。」と書かれていて。「この仕事をすれば、間接的に環境保全に関われるんじゃないか。」と興味を持ち、くさかんむりへ入りました。

—お二人とも、とても楽しそうにお仕事をされていますよね。茅葺きの仕事で特に好きなところは何ですか。

福山さん
一番感動する瞬間は、茅にはさみを入れて刈り込んだときです。生まれ変わったみたいに一気に見た目が美しく変化します。あと、茅という素材自体が好きで、茅の新しい表情を見つけてアイデアを膨らませる作業はとても楽しいです。アイデアを具体化させて、多くの人に魅力が伝わるとやりがいを感じます。

小西さん
自然環境への負荷が少ない仕事という点で、自分の気持ちにストレスがかからないのがいいですね。仕事の中で特に自然環境を感じるのが、古い屋根を解体する「めくり」という作業です。解体前の古い屋根をよく見ると、ほとんど土の状態になっていて、苔や植物が生えています。少し掘ってみると、幼虫が出てくることもあります。そこで改めて、自分がやりたかった環境保全の分野に近い仕事なんだと感じます。
あと、「職人」や「修行」と言っても、寿司職人や宮大工などの繊細な修行とは少し違っている点が面白いです。細かい技術はもちろんありますが、どちらかというと、農村の技、生きるための知恵を学んでいるという感覚です。例えば、材料には「必ずこれでなくてはならない」ものはなくて、「手に入るものでなんとかしよう」と適宜材料を変えて対応します。現状に合わせて柔軟に考える知恵が身についていきますよ。

―くさかんむりでは、20~30代の若い世代が活躍されています。茅葺きに関心のある若い世代は増えてきていると感じますか。

福山さん
他の業界と比べて母数が少ないですが、ここ数年で特に増えています。くさかんむりでも、20代が毎年複数人ずつ入ってきています。特に、大学で建築を学んで、卒業後すぐに茅葺に関わる人が多い印象です。その理由のひとつには、環境面があると思います。私達の世代以降は、学校で環境問題について当たり前に触れるようになりました。現代建築を学ぶ中で「環境に配慮した建築の仕事がしたい」「職人の仕事がしたい」「木造よりもさらに自然の循環がある建築に携わりたい」といった考えに至る学生がいて、茅葺きはその究極の選択肢なんだと思っています。

―世界でも、茅葺がサステナブルだとして注目されているそうですね。

福山さん
茅は他の建築材料に比べてCO2排出量が少なく、サステナブルな素材として世界的に注目されています。中でもオランダは世界で最も茅葺きの取り組みが進んでいることで知られています。防火制度などのさまざまな法律を変えて、新築が増加し続けています。私はオランダの現状が知りたくて、大学院時代に1年間留学をし、オランダの現代的な茅葺きについて研究しました。研究で見えてきたのは、オランダは茅葺きをとても合理的に捉えているということです。施主は「安くていいもの」を求めるため、茅葺き業界は茅刈りの機械化や質が良く安い茅の輸入を進め、職人は葺くスピードで競います。ビジネス色が強くなってきている印象を持ちました。茅葺きの「考えや文化」の再評価というよりは、CO2排出量が少ない優秀な「素材」という理由で合理的に利用が進んでいます。

―これから挑戦したいことを教えてください。

福山さん
独立して茅を専門に扱うデザイン事務所を立ち上げたいです。今と全く別のことをするのではなく、独立したからこそくさかんむりに還元していきたいですし、親方である相良さんに恩返しをしたいと思っています。

小西さん
以前京都のお茶畑で働いていたとき、2018年の西日本豪雨に遭遇しました。畑が崩れて大きな被害があったのですが、お茶畑の人たちは、行政の支援を待たずに「今自分たちでできることをしよう。」とすぐに動き始めたんです。その姿がとてもかっこよくて。この経験がきっかけで、「もしものときに自分の命を守り、周りの人も助けられるような技術を身に付けたい。」と考えるようになりました。茅葺きの仕事には、縄の使い方や足場の組み方など、役立つ技術がたくさんあります。これからも、仕事を通してさまざまな技術を身に着け、災害時などに活かせるよう備えたいです。

―最後に、普段取り組んでいる環境にやさしいことはありますか。

福山さん
節約や節水、ごみの減量など、日常で取り入れて続けるのが結構苦手です。やりたい気持ちはあるのですが・・・。プライベートではできない分、茅葺きの仕事で貢献したいと思って頑張っています。

小西さん
地元の自然に触れる時間を取っています。釣りや、春なら山の近くの山菜を採りに行って、季節の移り変わりを感じています。あとは、ご飯を残さないことですね。

 

-これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

SNS でシェアする

トップへ戻る