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環境活動環境保全

最終更新日:2024年3月31日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/江副真文・Peace&Nature提供

自然の中で一緒に活動すれば、国籍関係なく団結が生まれます。
皆で学び合い、どんなところでも生き抜ける力を身につけてほしいんです。

NPO法人Peace&Nature代表
バハラム イナンルさん

イラン出身。イラン・イラク戦争を経験し、平和と日本の文化を求めて24歳で来日。2003年にPeace&Natureの活動を開始し、2006年にNPO法人化。神戸をベースに、グローバルなメンバーや企業、学校などと連携を図りながら、未来のグリーンリーダーの育成を目的に活動している。
(*グリーンリーダーとは、自然から学び、地域や社会の課題を知り、解決に向け行動する人材)

website
https://peace-and-nature.com/

―Peace&Natureはワークショップや里山整備などを通じて、グリーンリーダーの育成に取り組まれています。団体の特徴を教えてください。

私たちはSDGsに特化した団体で、17の目標のうちの「4:質の高い教育」「13:気候変動」「17:パートーナシップ」に重きを置いて活動しています。そして、神戸だけではなく世界に目を向け、グローバルのニーズに応えられる団体でありたいと考えています。今は45か国のメンバーが参加しているんですよ。団体のコンセプトは「温故知新」。昔のいいところと、現代のいいところのコンビネーションを大事にしています。

―45か国ものメンバーがいるのですね!国籍を超えて、さまざまな人と活動する魅力はどんなところにありますか。

「同じ釜の飯を食う」ということわざがありますよね。国籍関係なく一緒に活動をしていると、自然と会話が生まれます。今年の2月に実施したワークショップでのこと。切った高木を薪にして、スペインの伝統料理「パエリア」をつくる計画をしていました。高木を切ろうとしたとき、他の木とつるで絡まって倒れない状況になってしまって。薪がないとパエリアが作れません。すると参加者全員で「どうしたら木を倒せるか」を考え始めました。持ってきたロープで木を縛り、安全を確かめながらみんなで一斉にロープを引っ張りました。同じ目標を持って活動する中で団結が生まれたんです。

―メンバーの皆さんは、どのようなきっかけや想いで参加されているのでしょうか。

私のように永住権を持ってずっと日本に住んでいる人もいれば、仕事の関係で数年間だけ日本に来ている人、メンバーに紹介されてやってきた人もいます。参加理由は、「グローバル的なネットワークを持ちたい」「自然環境が好き」「日本古来の伝統文化を体験してみたい」など十人十色です。田舎には伝統的な生活がまだまだ残っているので、外国人には魅力的なんだと思いますよ。活動で出会ったいろんな国の方々はSNSなどでつながり続けて、どんどんネットワークが拡がっていますね。

―Peace&Nature は2003年、有機農業と森の活動を軸にスタートし、2023年に活動20周年を迎えました。今、日本の農業について考えることはありますか。

日本の自給率は先進国にも関わらず、38%しかありません。残念ながら気候変動は年々悪化し、農家の平均年齢はかなり高くなって、確実に限界に近づいていると感じます。活動拠点の周辺でも休耕田が年々増えています。私たちはこれまで休耕田に新たな価値をつけるため、お米の栽培や大学と連携したプロジェクトなどを進めてきました。今は新たにオリーブの木を植える計画を立て始めています。
私は、農業は単なる野菜作りやものづくりではなく、その背景にある考え方や生き方、生き様にこそ価値があると考えています。先日、地元の農家さんにオリーブの計画を相談したときのこと。彼が「オリーブの木や実がなる木があれば、鳥たちが喜んで寄ってくるからいいね。」と話してくれたんです。私はそれまでオリーブの計画は人のためだと思っていたので、彼の話にとても納得して。人間だけがよければいいのではなくて、自然環境全体が良くなる「共存共栄」が大事なんだと気づかされました。農家は別名「百姓」と言いますよね。ひゃくしょうを「百匠」と書いて、つまり自然と調和する技を沢山持っている人たちです。農業がもつ「共存共栄」や「わびさび」の考え方は、日本の伝統的なスピリットです。誰がどうやって将来の食と環境を守るのか考えなければならない今こそ、原点に立ち戻ってみんなで真剣に日本の農業の精神を学ぶべきだと思います。

—20周年を迎え、これから力を入れていきたいことはありますか。

20周年を迎えたタイミングで、新たな段階に進もうと考えていて。一言で言うと、どんなところであっても“生き抜ける力”を育てる教室を計画しています。AIに聞けば数秒以内にぱっと答えが出てくる現代にこそ、強くたくましく、五感を活かして、地域環境に貢献しながら生きていく力を身につける場を作りたいんです。誰かが先生になるのではなく、自然を大学にして、私自身も生徒になって一緒に学んでいくことができればいいなと。特にこれからは、幼稚園や小学生など年代の若い人たちを対象にした企画を作りたいと考えています。

―世界が不安定な今こそ、生き抜く力が求められますね。幼稚園や小学生などの若い世代への教育が大切だと思ったのはなぜでしょうか。

「三つ子の魂百まで」っていうことわざがあるでしょう。もちろん3才は例えだけど、幼稚園や小学校低学年の子は、学んだことをスポンジみたいに吸収します。以前、小学校で環境の授業をしたとき、「不都合な真実」という映画を見せて子どもたちに「環境のために行動していってほしい」と伝えたんです。そしたら生徒の一人が授業後すぐ、使っていない教室の電気を消しに行ったんですよ。先生が「何しているの?」と尋ねたら、「環境のために、ここの電気はいらないでしょ。」って言ったそうです。とっても素直ですよね。他にも、大沢町の拠点に神戸ドイツ学院インターナショナルスクールの子どもたちが来たときのこと。「よくできました!」とほめていたら、子どもたちの目が輝いて、いきいきとしたオーラが見えたんです。こうした子どもたちの反応を見ていると、自身の考え方や生き方が定まっていない小さい頃に、自然の中で命や生き抜ける力を学ぶことで、環境を理解し行動を起こせる人たちに育ってくれるんじゃないかと思うんです。

―昨年2023年には、新たな拠点「ラボ」が完成しました。ラボではどんな活動が生まれていますか。

パートナー企業の施設を借りて作った「ラボ」は、SDGsに貢献しながらビジネスも回していける起業家の精神を高める場です。最近では、無農薬で育てた黒豆を使って味噌づくりのワークショップを行いました。土を作り、種をまいて、作物を育て収穫して。加工をしてできたものに自分たちで値段をつけて、自分たちで販売する。それが売れてお金になったら、これもひとつの循環です。その一連の過程をいろんな国の人と進め、コミュニケーションの力もつけていけば、どんなところであっても生き抜ける力が身につきます。
それぞれの国のレシピや隠し味を持ち寄って、かけ合わせると新しい物が生まれることもあります。商品開発はイノベーションを促進するという意味も含んでいます。

―バハラムさんのお話を聞いていると、地域の皆さんは協力的で、いい関係性を築いているように感じます。どのように地域に根付いてこられたのでしょうか。

大沢町で活動を始めた頃は、地域の人たちも半信半疑で、「都会の人、外国の人が来て大丈夫かな」と心配していたと思います。でも私は、活動当初から地元の行事、祭り、草刈や溝の掃除に参加するように心がけていました。そうしているうちに打ち解けていったんです。親切な人や尊敬する人たちに出会い、たくさんのやさしさに触れましたね。それから紹介された空き家を改修して「大沢ベース」という拠点を作りました。拠点ができてしばらく経ったあるとき、活動に訪れた園児たちが走ったり笑ったり喧嘩したりして、大きな声を出していたことがあって。後日近所の人に「うるさかったでしょう、ごめんなさいね。」と謝りに行ったら、「全然大丈夫。この地域は何十年も子どもの笑い声とか泣き声が聞こえていなかったから、嬉しかったよ。」って言ってくれたんです。それを聞いたとき、私たちの活動が地域の活気につながっていて、地域の希望になっているんだと気づきました。
今も、「地域の役に立つ」という想いを大切にして活動しています。そのひとつが竹林整備です。そのまま放置していると光が遮られ、近くの畑に影響が出てきてしまいます。定期的に学生やメンバーで竹を切っています。単純なことですが、地域の人からとても喜ばれるんですよ。困っているところを私たちが手伝って、地域環境のためになればと思います。

―活動する上で、神戸のポテンシャルをどのように感じていますか。

神戸はいろんな食文化や宗教、民族が存在しています。ただ、残念ながら人口が減ってきていますよね、そういうグローバル的な付加価値をアピールしていくのはいいかもしれません。今こそ「災い転じて福となす」だと思います。

―Peace&Natureの活動は本当に多様な人々が関わっていますよね。バハラムさんが人と接するときに心がけていることはありますか。

僕はあまりフォーマルが好きではありません。やっぱり、人間は自然に基づいているものであるべきだと思います。僕が自然体でリラックスしていたら、相手もリラックスしてありのままを出せるので。地元に受け入れられたのも、多分、自分の心を見せていたからじゃないでしょうか。

―最後に、おすすめの環境アクションを教えてください。

その場に行くだけでなく、活動への関わり方にはいろんな段階があります。ある人は、得意の技術を活かして現場で活動する。またある人は、得意の文章で周りの人に発信していく。そのまたある人は、時間がなくて現地に行けないけれど資金的に活動をサポートする。どんな関わり方でも、自分にできることをしていけばいいと思いますよ。

-これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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