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アップサイクル

最終更新日:2021年10月5日

インタビュー・文 /北村胡桃 写真/ 江副真文・Maro Kurataniさん提供

企業でニットデザイナーとして働いていた頃、
売れ残って捨てることを分かって大量生産する現実に疑問を持ち独立。
「世の中にすでにあるのものを新しい形に変えたい」と、
アップサイクルデザイナーの道を選びました。

LOVE it ONCE MORE
アップサイクルデザイナー

Maro Kuratani さん

神戸市在住のアップサイクルデザイナー、ニットデザイナー。企業のニットデザイナーを経て独立。大量生産による廃棄の現実に違和感を感じ、一度手放されたものに新しい価値をつけるアップサイクルデザイナーとして活動中。独創的な発想がSNSでも話題に。

Instagram
https://www.instagram.com/maro_kuratani/
youtube
https://www.youtube.com/channel/UCT7A4z5Bx-OR8g16XsMmcmw

―Maroさんのアップサイクルブランド「LOVE it ONCE MORE」の活動について教えてください。

主にアップサイクルブランド「LOVE it ONCE MORE」で、集めた資材や廃棄される糸をリメイクして販売しています。その他、三宮のEKIZO内のお店が始めた「レストランプロジェクト」のクラウドファンディングで、リターン品の制作にも携わっています。余剰在庫の生地を使ったエプロンを、レストランで出た皮や種、規格外野菜を使ってさまざまな色に染めました。最近では、他のレストランのユニフォーム制作の依頼も受けています。

―なぜ「アップサイクル」を始めたのでですか?

もともと、企業でニットデザイナーとして働いていたのですが、そこでの経験が大きいですね。企業に入って、初めて自分がデザインした服が廃棄になる現実を知りました。企業は製造コストを下げるために大量生産するんですが、私はそこに加担したくないと感じながら仕事をしていました。
企業はいろんな人の生活を背負っているので仕方がないという事情もありますが、個人であれば、自由に発信や活動ができるし、責任はひとり分。そう考えて、私は個人で活動することを選び、会社を辞めました。
自分でやるならブランドを持ちたいけれど、どんな形でやろうかと考えたとき、既に世の中にはものが溢れすぎているから、それを新しい形に変えたいなと。そのとき、「アップサイクル」という言葉に出会い、やってみようと思いました。
世間ではまだアップサイクルという言葉が広まっていなくて、私の周りは「アップサイクルって何?」「何でそんなことやるの?」といった反応でしたね。
でも私は、どうしても自分の心が「新しく作る」っていうのにフィットしなくて。どこを歩いても服はいっぱいあるので、自分のエゴだけでつくるのは違うなと考えていました。そうした考えの中で、自分が納得できる作り方が「アップサイクル」だったんだと思います。

―ブランドを始めた当初、服はどうやって集めたんですか?

活動当初、古着の倉庫でアメリカのTシャツなどを集めてアップサイクルしていました。そうした活動をインスタグラムで発信し、少しずつ知ってもらった上で、古着や糸の寄付を募るようになりました。
例えば、昔おばあちゃんが使っていた糸があるよっていう人から、たくさんの種類の糸をいただいたり、アップサイクルをしている仲間からニットを分けてもらったり。
資材にお金がかからないので、売り上げの一部を保護猫と保護犬の施設に寄付する取り組みも行っています。

―MaroさんはSNSをうまく活用していますね。どんなところに気をつけて発信していますか?

素直な気持ちを伝えるようにしています。毎年、大量の服が廃棄されていると言われても、なかなか自分ごと化できないですよね。だから私自身が「服が廃棄されるところを見た」とか、私自身の経験を通してリアルに伝えられることしか発信していません。
あとは、環境問題をハッピーな気持ちから知ってもらいたいですね。現実を知ると暗い気持ちになってしまうので。あくまでも私は服を通してハッピーな感情で伝えて、見た人が自然と自分で問題を探るようになってもらえたらなと思います。

―神戸の街にどういう想いがありますか?

神戸出身なので、海と山、自然があるところがとても好きです。事業をする場所に強いこだわりはありませんが、神戸はとにかく居心地がいいですね。

―神戸は環境活動の場所として可能性はあると思いますか?

周りの友人らに神戸の印象を聞くと、「おしゃれ」や「きれい」といった答えが返ってきます。もともといい印象があるので、プラスで取り組めば相乗効果は大きいと思います。神戸はいいお店、こだわりの強いお店がいっぱいあります。そういうお店と一緒に何かできたらいいですよね。

―Maroさんのアップサイクルブランドを伝えたいターゲット層は?

私のブランドは、服を作る工場の方にもしっかりとお金がまわるような、持続可能な形にしたいので、価格はあまり安くありません。そういう意味では、ターゲットの年齢層は少し上かもしれません。でも、最近伝わっているなと思うのは専門学校の学生さんが多いですね。SNSでDMをもらうこともあります。

―専門学校の学生など、若い世代がアップサイクルに関心を持つ理由は何なのでしょうか?

今、ファッションを志す子たちは、環境問題についてよく考えています。ファッションが大きな環境負荷を与えていることを知っていて、これからの服は、環境に配慮してリサイクルウールやリサイクルコットン、オーガニックを積極的に使おうと考えています。服飾業界としても状況が変わってきているのかもしれません。

―Maroさんのブランドを買ったお客さんは環境問題に意識がある方が多いのでしょうか?

私のブランドを買ってくれるお客さんの中には環境問題を意識している方もいますが、デザインで選んでもらうことが多いですね。それは私にとって、すごく嬉しいことで。デザイナーである以上、環境問題がきっかけで買ってもらうよりも、始めに「かわいいな」と思って買ってもらって、その背景に環境問題がマストでついている、という方がいいと思っています。

―ブランドを立ち上げて2年。苦労したこと、難しかったことはありますか?

生産効率が一番の悩みですね。集まった服は一着一着全部違うので、それを解体して新しくするのは時間がかかり、たくさん作ることができません。でも、より多くの人に環境問題や保護犬のことを知ってもらうためには事業を拡大するしかない。うまくバランスを取ってやっていきたいですね。

―難しいことがある一方で、2年間を通して、学びや想いはありますか?

2年経っても、買ってくれる人がいる感動は、毎回すごく大きいです。毎回ドキドキするし、服をごみにしてはいけないという責任を感じます。そのドキドキ感と責任感は2年経っても全く慣れませんが、慣れたらいけないなと思っています。
作ることが好きなので、これからもずっと作り手でいたいです。思っているものをカタチにするのが本当に楽しいので。

―ブランド活動の他に、「マクロビオティック」の料理教室を主催されているとか。

マクロビオティックは日本の伝統的な食文化を大切にする考えのことです。マクロビオティックの本質が、自分のものづくりと通じると感じています。
例えば、「一物全体(いちぶつぜんたい)」という考え方は、皮や根まで丸ごと全部を食べ切るというもの。無駄のない料理の考え方が、なるべく捨てずに全部使うようにしている私の服作りとよく似ています。

―Maroさんが環境問題を意識し始めたのはいつ頃ですか?

私の世代は、小学校の頃から学校で環境問題について勉強していて。それを聞いて「地球がなくなってしまうのかな…」と考えていました。エアコンの温度を自分で上げたり、日差しが強かったら、これってどうなっているんだろうと気になったり。
社会人になって企業に勤めてみたら、服をたくさん生み出して、捨てているという現実を知って。自分がそこに関わっていると気づいた時、より環境問題が自分ごと化されましたね。

―お話を聞いて、私も何かできないかと思い始めました。服選びはどんなところに気をつけて選んだらいいのでしょうか?

まずは、「今、持っている自分の服を見直してみる」ことが大事だと思います。自分はどれだけ服を持っているか、どの服を着ていて何を着ていないか。断捨離していけば、自分が着る服ってこれなんだなと分かってきます。
服を買う時も、まずはフリマアプリなどでセカンドハンドを一度見てみる。新しく買うなら、理念のあるブランドや学びがあるブランドを買うと、次のステップになると思います。自分の好みを知って、買い物を失敗しないようにすることが大切だと思います。私は買う時には本当に好きで、絶対大事にするものを買います。ファッションには「つくる責任」と「買う責任」があると思っていて、私は作る人でありながら、買う人でもあることを意識しています。

―まずは「自分の服を見直してみる」。ぜひやってみたいと思います。Maroさんがこれからやりたいことはありますか?

3Dやデジタルを取り入れて、新しいブランドの形を作っていきたいと考えています。今、オンラインで服を買うと、実際に着てみるとサイズが合わないことがありますよね。でも、お客さんのサイズデータを読み込んでおけば、ぴったりのサイズが作れます。廃棄の出ない、サステナブルな新しい枠を作っていきたいです。
一方で、伝統的なニットの編み方も学んでいます。デジタル技術と伝統的なものという究極の2つを学んで、融合させたら何ができるかを試してみたいと考えています。

―これからの活動に期待しています。ありがとうございました。

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