GO GREEN KOBE 環境にやさしい神戸をつくる。

Articles

循環型社会食品ロス削減

最終更新日:2023年12月25日

食品ロスのプロセスチーズが肥料に生まれ変わる。
六甲バターが目指す新たな循環システム

六甲バター株式会社 神戸工場
上席執行役員 開発本部長 兼 技術開発室長 後藤毅浩さん
マーケティング本部事業開発部長 中尾真範さん
マーケティング本部 事業開発部 事業研究チーム 安木亮佑さん

 

ベビーチーズやスライスチーズなど、日々の食卓に欠かせない「プロセスチーズ」。プロセスチーズとは、種類や熟成度の違うチーズを溶かし、混ぜ合わせ固めたチーズのこと。学校給食などでも馴染みがあり、多くの世代にとって身近な存在ではないでしょうか。今回は、そのプロセスチーズを長年製造・販売している六甲バター株式会社の環境にやさしい取り組みをご紹介します。

製造過程で発生するロスチーズの新たな可能性を見出したい。

六甲バターは1948年に創業し、1958年から現在まで、プロセスチーズを作り続けてきました。2019年には、生産体制の強化を図るため、神戸市西区に工場を新設しました。AIやロボット技術を導入した新しい製造方法で24時間稼働しています。また、環境に配慮した工場を目指し、省エネ技術や太陽光発電を取り入れています。そして今、力を入れているのが「製造工程でどうしても発生してしまい、廃棄となる『ロスチーズ』の活用」です。神戸工場では、1年間でおよそ860トン(2022年度)のロスチーズが発生しています。ロスチーズのうち4割は、社内での活用や飼料会社による引き取り、ガス化によって再利用していますが、残り6割は、焼却処分しています。焼却処分によるCO2排出量は年間約49トンにもなり、脱炭素の観点から課題とされてきました。六甲バターサステナビリティ宣言内の2030年環境目標では、この廃棄量をゼロにすることを掲げています。そこで事業開発部は、ロスチーズの焼却処分量を減らし、新たな活用を探るべくプロジェクトを立ち上げました。プロジェクトの目標は、「工場から出るロスチーズを新たな形でアップサイクルし、最終的にチーズに戻ってくる循環システム」を構築すること。そのシステムを仮に「QBBエコシステム」と名付けています。

中尾さん
栄養価の高い貴重な資源は決して無駄にしたくありません。しっかり食品として使い切ることが第一です。どうしても食品としては使えなくなったものは、次善策として、食品を生み出す生態系(エコシステム)に役立つようにしようと考えました。

品質を重視するがゆえに発生してしまうロスチーズ。

製造過程で、どのようにロスチーズが発生するのでしょうか。チーズを加熱する「溶融」の工程では、大きな釜で溶かしたチーズを別の容器に移し替える際にこぼれ落ちることがあります。溶かしたチーズを型に流し入れる「充填」の行程では、機械のずれによりチーズが型からはみ出したり、中身が潰れてしまったりすることがあります。また、さまざまな種類のプロセスチーズを製造しているため、種類を変えるごとに行う配管の清掃時や、機械を止める直前と再開した直後にロスが発生します。他にも、重量チェックやX線検査などの数々の厳しいチェックを経る中で、少しずつロスが発生しています。品質を検査する分析室では、各ラインから集まったサンプルを使って検査していますが、使わず余ったサンプルはロスとなります。各工程で発生したロスチーズは一か所に集められ、飼料会社などが引き取るものと、焼却処分するものに分けられます。焼却処分となるロスチーズの特徴は2つあります。1つ目は、ブラックペッパーなどの香辛料が含まれた種類のもの。配合物が複雑だと飼料化が困難なためです。2つ目は、包装された状態のもの。包装を剥がす手間がかかり、再利用に向かないためです。

後藤さん
神戸工場では、これまで手作業だった工程の多くを機械化したことにより、ロスの割合は減りました。ただ、品質を重視するがゆえにどうしてもロスが出てしまいます。

日本の農業が抱える課題を解決するために、ロスチーズを肥料として活かしたい。

今回のプロジェクトで掲げたロスチーズの新たな活用方法は、「養殖魚の飼料」「昆虫の飼料」「養鶏飼料」「肥料」の4つ。中でも今開発が進められているのが「肥料」です。令和5年度からKOBEゼロカーボン補助金の採択を受け、研究を進めています。肥料に着目した背景には、チーズの成分が肥料に適している点に加え、日本の農業が抱える課題があります。日本では化学肥料の使用が主流です。しかし、化学肥料の原料は日本で自給できず、ほとんどを輸入に頼っています。輸入は国際情勢に大きな影響を受けて、価格が大きく変動します。そこで農林水産省は2021年に、輸入原料や化学肥料の使用を30%減らし有機肥料への置き換えを目標にした「みどりの食料システム戦略」を打ち出しました。日本全国で輸入に頼らない安定した肥料の確保が喫緊の課題となっているのです。今回ロスチーズで肥料を作ることにより、食品ロス削減や脱炭素だけでなく、日本の農業にも貢献していきたいと考えました。

チーズ肥料の効果が、農家や研究機関の協力で明らかに。

チーズ肥料は、ロスチーズに植物性の副資材と微生物を加え、1カ月~2カ月発酵させて作ります。生のチーズをそのまま土壌に入れると腐敗が進んでしまいますが、微生物の力で分解すると、腐敗させずに発酵を進めることができます。チーズ肥料は、化学肥料の代替としてだけでなく、土壌改良につながる堆肥の役割も併せ持ちます。現在は、実験を重ねて根拠となるデータを集めている段階です。具体的には、化学肥料と比較した実証実験、土壌微生物の解析、チーズに含まれる塩分の土壌への影響についての検査を進めています。実証実験では、六甲バターの農場だけでなく、神戸市と稲美町の農家、神戸ワイナリー、フルーツフラワーパークの協力を得て行っています。葉物、根菜、果樹、それぞれの作物にどのような効果があるかを調査するためです。例えば神戸市西区の圃場では、キャベツで実験をしています。化学肥料100%の畝、化学肥料をチーズ肥料に30%置き換えた畝、50%置き換えた畝を設け、成長スピードと収穫時の重量、サイズを比較しています。協力した農家から「チーズ肥料に置き換えても問題ない」との評価が得られました。神戸ワイナリーでの試験では、ワインブドウの色づきが良く、糖度が高くなり、ワイン製造に適した品質になる傾向がみられました。しかしこれらの結果は、天候や土壌などの他の条件に影響している可能性があるため、一概には評価できません。次年度は場所を変えるなどしてさらにデータを集める必要があります。また、今後は外部の研究機関に依頼をし、一定の条件下で同じように効果を発揮できるかを調べる予定です。

品質向上と効率化に挑戦。

チーズ肥料を普及させるにあたっての課題は大きく3つあります。1つ目は「価格」です。手に取ってもらいやすい価格設定をしなければなりません。2つ目は「品質」です。現在の試作品はほぼ手作業で製造していることから、品質にばらつきがあります。品質を一定に保つための基準づくりが求められます。3つ目は「時間」です。発酵期間が1~2カ月かかり、完成までに3か月という長い期間を要します。販売量を増やすには製造にかかる時間の短縮を考えなければなりません。こうした3つの課題をクリアして効率よく製造を進めるために、機械化の検討も始めています。

安木さん
プロセスチーズに特化した肥料は世界的に珍しい取り組みです。プロセスチーズの品質に誇りを持っている食品メーカーだからこそ、肥料の品質もこだわっていきたいと考えています。

ロスチーズはチーズ肥料へ、チーズ肥料は新たなチーズへと循環。

完成したチーズ肥料は、農家向けを中心に、家庭菜園向けの販売も行う予定です。連携協定を結ぶJA兵庫南のエリアでの販売を皮切りに、将来的には神戸市内、全国へと普及させる計画を立てています。最後に、チーズ肥料を通して実現したい「循環」について伺いました。

安木さん
例えば、六甲バターでは、環境問題や食糧問題の解決策として植物性チーズの開発も手掛けています。チーズ肥料で育てた大豆やじゃがいもを使って植物性チーズを製造すれば、ロスチーズが新たなチーズへと生まれ変わる循環のストーリーが描けます。地産地消として地域の活性化にもつながります。こうした循環を回していくために、これからも長期的に取り組んでいきたいと考えています。

六甲バター株式会社

Web site
https://www.qbb.co.jp/

Instagram
https://www.instagram.com/qbb_official/

 


この取り組みは、神戸市が実施しているKOBEゼロカーボン支援補助金制度を活用しています。

【KOBEゼロカーボン支援補助金制度】
2050年二酸化炭素排出実質ゼロの実現に向け、神戸の豊かな自然や環境を活かし、自由な発想による先進的で創造性に富んだ、地域貢献につながる取組みにチャレンジする市民、団体、法人などを積極的に支援する神戸市の補助金制度です。
https://www.city.kobe.lg.jp/a36643/zero_carbon_aid.html

SNS でシェアする

トップへ戻る