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最終更新日:2023年4月19日
明石川を水族館のように生き物でいっぱいにしたい。
川の環境を大きく変えた子どもたち
玉一アクアリウム 小田隆司さん
みなさんは、家の近くの川にどんな生き物が棲んでいるか知っていますか。小さい頃川で遊んだ記憶がある方、外来種が増えていると聞いたことがある方もいるかもしれません。実は今、神戸市北区から西区を流れる明石川の生き物の種類が、地元の子どもたちの手によって年々増えてきています。一体どのような取り組みなのでしょうか。今回は明石川の環境保全に取り組む「玉一アクアリウム」をご紹介します。活動に参加しお話を伺いました。
珍しい生き物を次々と見つける子どもたち
玉一アクアリウムの主な活動は、毎週1~2回、明石川の生き物を捕って川の環境を調べるモニタリング調査です。調査の後、絶滅危惧種や在来種は川に放し、外来種は駆除をします。外来種は調理して食べたり、学校で飼育している生き物のエサにしたりと命を無駄にしないよう活用しています。活動場所は明石川の上流から下流まで、日ごとに変えて調査します。
訪れたのは桜が満開に咲く4月上旬。明石川と伊川の合流点で活動すると聞き現地に向かうと、玉一アクアリウム世話役、小田隆司さんとウェーダー(防水パンツ)姿の子どもたちが笑顔で迎えてくれました。メンバーは玉津第一小学校の3年生以上の在校生、卒業した中高生、さらには大学生まで現在約30名在席しています。この日は7人の小中学生が集まりました。横一列に並び丁寧に自己紹介をしてくれた後、「いっておいで~」という小田さんの呼びかけで、子どもたちが一斉に網とカゴを持って川へと入り始めました。それぞれ生き物が見つかるポイントを押さえているようです。石をひっくり返し、注意深く生き物を探します。しばらくすると、メンバーの一人が生き物をかごいっぱいに入れて小田さんの元へやってきました。「これは、ヒラテテナガエビとミナミテナガエビかな。」と生き物の名前を伝えます。小田さんは子どもたちが捕まえた生き物の名前と大きさ、数、捕れた場所を記録し、神戸市が運用するKOBEエコアクション応援アプリ「イイことぐるぐる」内にある「生きものマップ」に情報提供しています。
小田さんが子どもたちと生き物当てクイズを始めました。「これは何?」と聞くと「分かった!ミナミテナガエビや!」と子どもたちは即答。どうやって見分けるのか小田さんに尋ねると「手が平べったいのがヒラテテナガエビで、体の模様のMの字がはっきりしているのがミナミテナガエビです。これはどちらも絶滅危惧種なんですよ。」調査早々、絶滅危惧種が見つかることに驚いていると、続けて「これはヒナハゼ。兵庫県で円山川と揖保川に次いで三例目に明石川で見つかりました。」「これはオオヒライソガニ属。兵庫県で玉一アクアリウムが初めて見つけました。熱帯のカニなのですが、明石川までやってくるんです。」調査から30分も経たないうちに、次から次へと珍しい生き物たちが登場します。毎回、何十種類もの生き物が捕れるのだそう。しかし、活動当初の明石川は全く違う環境だったと小田さんは振り返ります。
小田さん
活動を始めた2007年は、ブルーギルやオオクチバスなどの外来種がとても多かったんですよ。調査で来るたびに外来種を持ち帰り、調理して食べるなどして駆除を進めていくと年々数が減っていきました。すると一気に在来種や絶滅危惧種が増え始めました。目に見えて実感できるほどです。例えば最近、ブルーギルのエサになってしまうメダカが1,000~2,000匹の大群で水路を泳いでいる姿が見られるようになりました。その様子を見た子どもたちは活動にさらに身が入ります。子どもたちはこの活動に使命感とやりがいを持っていて、何より心から楽しんでいます。
子どもたちの熱い想いが伝わってくる、明石川オリジナル図鑑
玉一アクアリウムは調査の成果を活かして、生き物図鑑づくりにも挑戦しています。明石川に棲む生き物が90種類以上掲載された100ページ越えの超大作です。一種類ごとに、どこに生息しているか、最近どれだけ増えたかなど、玉一アクアリウムならではの視点で詳しく解説されています。中には「外来種のコイのからあげ。とてもおいしいです」と外来種の食べ方まで書かれたページもあります。
小田さん
子どもたちと話し合って、明石川のオリジナル図鑑にしたいから、他の図鑑に載ってないことを書こうと決めました。解説は明石川に特化したものにして、写真もイラストも玉一アクアリウムのオリジナルです。夏休み期間中に学校に集まって、熱心に図鑑づくりに励んでいました。
子どもたちの興味関心を大切にした結果、玉一アクアリウムができた
小田さんは普段、西区で果樹園を営んでいます。あるとき、飼っていたアイガモのエサを捕りに明石川へ。その様子を見た近所の小学生たちが興味を示したので、一緒に生き物を捕りにいくことにしました。それを知った子どものお母さんが小田さんを校長先生に紹介し、ゲストティーチャーとして3、4年生の授業で明石川の生き物観察を教えるようになりました。授業を終えた子どもから「4年生が終わってからも、もっとやりたい」と要望があり始まったのが玉一アクアリウムの活動です。名前は玉津第一小学校の「玉一」と、「学校の水槽と明石川を水族館のように生き物でいっぱいにしたい」という想いを込めた「アクアリウム」を組み合わせ、「玉一アクアリウム」と子どもたちが名付けました。
生き物を通じて、世代や学年を超えて仲良くなる
活動の様子を見ていると、子どもたちと小田さんの仲の良さが伝わってきます。子どもたちは「小田さん」と呼びかけ、小田さんも子どもたちの話に楽しそうに応えています。
小田さん
どこに行っても家族に間違われるくらい仲が良いです。毎年夏休みには、高知県の団体からのお誘いで、四万十川の生き物調査をしに合宿へ出かけます。夜は地域交流施設の部屋を借りてみんなで雑魚寝するんですよ。子どもたち同士も生き物を通して学年男女関係なく本当に仲が良いです。面白い子、個性の強い子、繊細で優しい子が多いですね。
子どもたちの「好き」をぐんぐんと伸ばしていく環境
小田さんと話をしていると、大きなウナギを捕ってきた子がいました。「川の中にあるパイプを傾けて、見つけるねんで。」と教えてくれたのは、ほとんど毎回活動に参加しているという小学6年生の男の子です。
小学6年生男の子
生き物は2歳のときから好きです。玉一アクアリウムはもともとお兄ちゃんが入っていて僕に教えてくれました。小学1年生の頃から体験会に参加して、4年生のときに入りました。活動の中で、珍しい生き物が捕れた時が一番嬉しいです。
小田さん
生き物を捕るのは入った当初から上手かったけど、生き物はそこまで詳しくはなかった。活動を通してぐんぐん上達して、今では大体何の生き物か分かるようになったね。
小学6年生男の子
これからは水生昆虫を覚えることに挑戦したいです。大学生の先輩が詳しくて沢山教えてくれます。将来は、漁師か水族館に関わる人になりたいなと思います。
捕ってきた生き物をじっくり観察しているのは、今年4月から部長に就任したという中学3年生。
玉一アクアリウム部長
もともと水生動物が好きで活動に興味を持って、小学5年生のときから玉一アクアリウムに入りました。僕の他にも、中学生になっても参加している人が結構います。どの活動も好きですが、やっぱり調査のときが一番楽しいです。長く参加しているとどこに何がいるかどんどん分かってきます。
小田さん
彼は活動の参加率がとても高いです。アクアリウムのことをよく分かってくれているよね。これから部長として頑張ってほしいです。
玉一アクアリウム部長
将来は水生動物専門の研究職につけたらいいなと考えています。今はスッポンの研究がしたいです。明石川で在来種か外来種かが分からないスッポンの見分け方を発見して、絶滅危惧種であるニホンスッポンの保全につなげたいです。
小田さん
大学生のメンバーの中には、生き物好きが高じて水産系や環境系の学部に進学している子もいます。子どもたちのお陰で私の世界もすごく拡がっていると感じます。今も毎年沢山の子どもたちが玉一アクアリウムに入ってきくれます。兄弟で来てくれる子も多いです。これからも子どもたちと一緒に明石川を守り育てる活動を続けていきたいと思います。
活動の最後に、先日源流で採った山菜をつかった小田さん特製おにぎりをみんなでいただきました。「美味しいなぁ」とみんなで笑い合いながら自然を味わいます。1日活動に同行して分かったのは、子どもの感性や主体性を大切にした活動が子どもの可能性を最大限伸ばし大きな成果につながっているということ。小田さんの温かい愛情のもと、貴重な体験をして活き活きとする子どもたちがうらやましく、頼もしく思えました。
こどもエコクラブホームページ「玉一アクアリウム」
Web site
http://www.j-ecoclub.jp/ecoreport/profile.php?id=361
明石川生物図鑑
Web site
https://www.city.kobe.lg.jp/a66324/biodiversity_akashi.html
スマホて投稿!生きものマップ(KOBEエコアクション応援アプリ「イイことぐるぐる」)
Web site
https://www.city.kobe.lg.jp/a66324/kurashi/recycle/biodiversity/ikimonomap.html
神戸市立玉津第一小学校
Web site
https://www.kobe-c.ed.jp/tm1-es
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