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脱炭素

最終更新日:2023年1月27日

神戸の酒粕で鶏を育てる。
脱炭素にもつながる、神戸大学と白鶴酒造の挑戦

神戸大学大学院 農学研究科 教授 本田和久さん
白鶴酒造株式会社 研究室 主任 平井猛博さん

 

日本酒を製造する過程で生まれる酒粕。実は栄養価がとても高く、大きな可能性を秘めています。今、日本有数の酒どころである神戸で、酒粕を鶏の飼料にする挑戦が進んでいます。酒粕で飼料を作るとさまざまなメリットがあり、環境に優しいポイントもあるのだとか。今回は共同で開発を行う神戸大学教授の本田さんと白鶴酒造株式会社の平井さんにお話を伺いました。

飼料の国産化の鍵は「酒粕」

鶏の配合飼料の原料は、約8割をトウモロコシと大豆が占めており、そのほとんどを輸入しています。スーパーで売られている「国産」と書かれた鶏肉も飼料は輸入しているので、厳密には自給できているとは言えません。飼料を日本で製造できれば、供給量や価格が安定し飼料を含めた食料自給率を上げることができます。さらに、大豆輸入時の海上輸送によって排出される二酸化炭素排出量を減らせて脱炭素につながるので一石二鳥。しかし国産飼料の開発は簡単なことではありませんでした。

本田さん

これまで飼料の国産化を図ろうと、焼酎粕やしょうゆ粕といったさまざまな原料の飼料開発が進められてきました。しかし繊維が多い点やたんぱく質が少ない点、ミネラル分が多い点など不十分な点があり、飼料の主要なタンパク質源である大豆粕に代わる原料は見出されませんでした。そこで注目したのが「酒粕」です。酒粕は乾燥させると重量の40~50%がタンパク質になります。これは大豆粕並みに高い数値です。しかし酒粕は乾燥が難しく、供給量が保てないことが理由で開発が進んできませんでした。ですが、酒どころである神戸市ならば酒粕が安定的に手に入ります。乾燥の技術を開発すれば可能性があるのではないかと考えました。

酒粕飼料ができるまでの長い道のり

本田さんは、神戸大学と以前から酒造りなどで連携していた白鶴酒造株式会社と共同で酒粕飼料の研究開発を始めました。水分が多い酒粕を飼料として活用するのは容易ではなく、最適な方法を見つけるため試行錯誤の日々が続きました。

本田さん

さまざまな方法を試しました。水に溶かす方法では、時間が経つと沈殿してしまいます。放置して自然乾燥させる方法だと、乾燥するには時間がかかる上、固くなりすぎ、衛生的にも課題があります。エコフィード(食品残さ等を利用して製造された飼料)を製造する企業は残飯や食品製造残さを乾燥させる際、高温で減圧、あるいは加圧をして乾燥させる方法を取るのですが、それでは酒粕が粘ってしまい上手く乾燥できません。研究を重ねた結果、「温風を当て、棚型で乾燥させる」という方法にたどり着きました。乾燥後細かくした酒粕は、見た目が大豆粕にそっくり。加熱や減圧をして乾燥をすると原料の匂いが飛んでしまうのですが、温風で乾燥させるので酒粕の良い香りが残るというメリットもありました。

平井さん

乾燥を委託できる会社を1年ほど探しましたが、求める品質に加工できる会社を見つけることができませんでした。製造が簡単でない原因には、酒粕は粘りがあって飼料用に細かくすることが難しく、板状の酒粕の状態で乾燥するには時間がかかりすぎてしまうことがあります。そこで神戸市の「KOBEゼロカーボン支援補助金制度」を活用し、酒粕の乾燥と粉砕に適した機械を購入し自社で製造することにしました。

酒粕で育った鶏肉を日本酒と一緒に。美味しさもとことん追求

すでに鶏への給与が始まっており、順調に育っているのだそう。酒粕飼料は鶏にどんな影響を与えているのでしょうか。現在、本田さんの研究室では、より美味しい鶏肉を作るため鶏肉の味を官能評価だけではなく化学分析によっても解析し、美味しさの原因を突き止める研究を進めています。さらに鶏肉のブランド化も見据えています。

本田さん

鶏も正直で、嫌いなものは食べないのですが、乾燥した酒粕は問題なく食べられるようです。大豆粕飼料と比べて成長スピードも変わりません。鶏肉の味も美味しいです。その原因は鶏肉の香りが改善されるところにあるとみています。酒粕飼料は一度に沢山の量が作れないため、値段は大豆粕飼料よりどうしても高くなります。しかしながら、酒粕飼料の鶏肉は、「水田から生まれた美味しい鶏肉」というブランディングによって、品質に見合う価格が理解されるよう啓蒙してゆきたいと考えています。兵庫県は近畿地方では養鶏を含み農業が最も盛んな県です。今後は飼料から鶏肉・鶏卵まで、全てを兵庫県で完結するようなフードチェーンを確立できればと期待しています。

平井さん

鶏肉の味わいに特徴を付与してくれるというのは非常に面白いと思っています。 酒粕飼料で育った鶏肉を白鶴のお酒と一緒に楽しんでもらう形が実現できれば、 ストーリー性があり、酒どころである神戸の魅力をわかりやすい形で発信することができるのではないかと考えています。

脱炭素、食ロス対策にも。酒粕飼料は環境にもやさしい

酒粕飼料は、飼料の国産化を実現させるだけでなく、脱炭素や食品ロス対策にもつながる環境にやさしい取り組みです。

本田さん

大豆の多くはアメリカやブラジルから輸入しており、今後はブラジルからの輸入量が増加すると予想されます。輸入する大豆から製造される大豆粕の代わりに国産の酒粕が飼料として用いられるようになれば、それに伴い大豆を日本へ運搬する際の二酸化炭素排出量が削減でき脱炭素につながります。また、経済発展をすると肉の消費が増える傾向にあって、その分飼料の需要も増えます。中国は経済発展とともに飼料の輸出国から輸入国に変わりましたし、今後はインドや西アジアでも需要が増えていくでしょう。一方で、大豆の輸出国であるブラジルでは、大豆の供給量を更に増やすための生産・流通の体制を整備・拡大し続けています。今後、環境負荷が増え続けることが容易に予想されるわけです。国産の酒粕が輸入大豆の一部に代わることができれば、このような環境負荷を少しでも軽減することができます。

平井さん

白鶴酒造では、酒造りの工程で出る酒粕はほとんど廃棄せず食品などとして販売してきました。例えば奈良漬け、魚の粕漬けなどの原料に使用されることもあれば、そのまま酒粕として販売されることもあります。ただ、食用に適さない形状の酒粕もあり、酒粕が用いられる従来の食用品用途以外の、新たな使い道も見つけたいと考えていました。今回本田教授から高付加価値の飼料開発という具体的なお話をいただき、私たちだけでは見出せなかった活用方法の提案をいただけて有難いです。

酒どころ神戸だから酒粕飼料はできた

平井さん

白鶴酒造では年間を通して大量に造っているお酒もあるので、安定した品質の酒粕を常に提供できます。その点は当社ならではの特徴ですね。実験の度に違う品質の酒粕だと、どの実験結果が正しいのか分からなくなるので量と質の安定は飼料開発に重要なことだと思います。

日本の農業と酒粕の可能性を拡げていく

お二人は酒粕飼料にどんな未来を描いているのでしょうか。

本田さん

食料自給率を上げるだけではなく、日本を農業立国にしたいという夢があります。食料自給率が高い国は輸出をしていることがほとんどです。日本のお米、お酒、今回の酒粕飼料で育った鶏など、日本だからこそできる農産物の生産力を高め、良いものを良い値段で海外に輸出していきたいと考えています。

平井さん

酒粕飼料の取り組みを通して、地域での資源の循環に貢献し、酒どころである神戸の魅力を発信したいです。その結果、酒粕の魅力が、これまで酒粕に馴染みのなかった人たちにも伝われば嬉しいです。

国産の酒粕飼料で育った鶏など、環境に配慮した食材がずらりと並ぶ食卓。そんな光景が当たり前になる未来はすぐそこかもしれません。皆さんも日々の食事に「環境にやさしい」という視点を少し加えて考えてみませんか?

神戸大学

Web site
https://www.kobe-u.ac.jp/

白鶴酒造株式会社

Web site
https://www.hakutsuru.co.jp/
SCRサイト
https://www.hakutsuru.co.jp/corporate/csr/index.html
プレスリリース
神戸大学と白鶴は、神戸市のCO2削減支援制度で共同研究を開始!~輸入飼料に代わる国産酒粕飼料開発で、地産地消とCO2削減を目指す~」(2023年1月23日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000153.000013868.html

 


この取り組みは、神戸市が実施しているKOBEゼロカーボン支援補助金制度を活用しています。

【KOBEゼロカーボン支援補助金制度】
2050年二酸化炭素排出実質ゼロの実現に向け、神戸の豊かな自然や環境を活かし、自由な発想による先進的で創造性に富んだ、地域貢献につながる取組みにチャレンジする市民、団体、法人などを積極的に支援する神戸市の補助金制度です。
https://www.city.kobe.lg.jp/a36643/zero_carbon_aid.html

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