~こうべキエーロ  レポート~

キエーロの土で野菜を育て、調理実習で活用。
自主性が育まれ、食の循環が学べる。
小学校で「こうべキエーロ」に取り組むと得られる、
たくさんのいいこと。

神戸市立小束山小学校
竹澤 啓二先生 平見 久美子先生

みなさんは小学生の頃、学校で野菜や花を育てた経験はありますか?神戸市垂水区の神戸市立小束山小学校では、キエーロの土を使って野菜を育てる取り組みが行われています。こうべキエーロの活動は、児童だけではなく、教員もたくさんの学びが得られるのだそう。一体どんな学びがあったのでしょうか?今回は、2024年度にこうべキエーロの活動を担当された竹澤先生と平見先生にお話を伺いました。

こうべキエーロの始まりは、児童の発表がきっかけ。

小束山小学校とこうべキエーロの出会いは2023年。SDGsについて学習していた総合の授業で、当時6年生だった児童が「給食の残食でコンポストができればSDGsにつながる」と発表したことがきっかけです。発表を聞いた担任の先生が何かできないかと調べる中で「こうべキエーロ」を知り、児童と一緒に取り組みをスタート。給食の調理で出た野菜くずをキエーロに埋めて分解し、ごみの減量を目指しました。
2024年の春、こうべキエーロの活動は次の6年生に引き継がれ、活動を担当することになった竹澤先生は6年生の各クラスから有志を募り、2年目の活動がスタート。

やる気を出す工夫をすれば、児童が自主的に続けていきます。

キエーロは、生ごみを埋めてから分解するまで2週間以上かかることもあります。完全に分解が終わるまで待つことが大切だと考え、キエーロ容器を5箱×3列の15箱用意し、1週目の月曜日から金曜日は1列目の5箱に毎日1箱ずつ野菜くずを入れ、2週目は2列目、3週目は3列目に入れるサイクルを作りました。4週目には1列目に戻るので、1週目の野菜くずはきれいに分解されている計算です。

毎日の作業は有志児童の当番制です。調理士さんが給食の野菜くずを袋に入れ、職員室前の専用箱に入れてくれることになっています。当番の児童はその野菜くずをもらって、休み時間や掃除の時間などを利用して作業を行います。キエーロの土に穴を掘って野菜くずを入れ、土とよくかき混ぜて水を入れ、土を被せてふたをすれば作業終了。とても簡単な作業ですが、一番大切なことは「児童のやる気継続」だと竹澤先生は言います。

[竹澤先生]
野菜くずを入れた1週間後にキエーロの状態を写真に撮りました。写真に「よく消えているで賞」「水分多いで賞」「野菜くずが多すぎで賞」と評価を付けて子どもたちに見せてみたんです。すると「自分たちも頑張ろう!」とやる気を出してくれて、どうしたら良くなるか自ら考え始めました。評価したのは2~3回だけでしたが、そこから子どもたちが自主的に作業を進めてくれたんです。野菜くずの入れ忘れは1年間で10回もありませんでした。やる気を出すきっかけを作ってあげれば、あとは子どもたちが主体的に取り組むようになります。

[平見先生]
毎日欠かさず、雨の中でもやっていました。やることが当たり前の、“生活習慣”みたいになっていましたね。(笑)

栽培委員会と協力して、キエーロの土で野菜を栽培。キエーロの土はよく育つ!

竹澤先生は、毎日野菜くずを入れ続けているキエーロの土に注目。「キエーロの土で野菜を育てられないか」とひらめき、栽培委員会の担当だった平見先生に相談しました。たまたま栽培委員会内で「珍しい野菜“ロマネスコ”を育てたい」という意見が出ていたことから、平見先生はロマネスコをキエーロで育ててはどうかと提案し、キエーロと栽培委員会の協同作業が始まりました。
8月下旬、キエーロの土と花壇の土の入れ替え作業。キエーロの土を花壇に、花壇の土をキエーロに移します。9月に入って栽培委員会の5・6年生の児童が土を入れたポットに種を植えました。育てる野菜はロマネスコ、カリフラワー、ブロッコリーの3種類を選びました。すべてアブラナ科の野菜ですが、生育すると全く違う形になるため、3種類の比較観察を楽しめると考えたからです。ほかにも何か工夫できることはないかと考えた竹澤先生と平見先生は、キエーロの土と市販の土を用意し、成長に違いがあるのかを比較することにしました。実際にどんな違いがあったのでしょうか?

[平見先生]
発芽率が全然違いましたね。キエーロの土で育てた種はほぼすべて芽が出ていました。芽が出るときからずっと見続けていた4年生の子どもたちも「全く違う!」と驚いていて、「家でもキエーロの土で野菜を育てるよう言ってみる」と話す子どももいました。
[竹澤先生]
野菜くずを入れ続けたキエーロの土は、質感が変わってくるんです。始めはカスカスの土だったのが、黒っぽい土に変わってきて。市販の土と比べて水はけがいいように感じます。キエーロを活用すれば、花壇の土を再生できると分かりました。

毎日が虫との戦い!4年生も巻き込んで、学年を越えた取り組みへと拡がります。

9月中旬、地元の農家さんのアドバイスを受けながら、ポットで発芽した苗を花壇と学習園に植え換えました。ここから大変だったのが、“虫との戦い”です。アブラナ科は、虫が付きやすいのが難点。放っておくとすぐに虫に食べられてしまいます。月1回の栽培委員会の活動では間に合わないと考えた平見先生は、担任をしていた4年生のクラスの児童と一緒に、掃除の時間に雑草抜きと虫の退治を始めました。キエーロの取り組みは6年生と、栽培委員会の5・6年生が行っていましたが、4年生も関わることになり、学年を越えた取り組みに拡がっていきました。

[平見先生]
生活科の授業で行う1人1鉢の野菜栽培とは違って、一体感がありました。汗をかいて、四つん這いになって、「今どうにかしないと明日の朝に芽がなくなる!」「やばいやばい!」と言いながらみんなで必死になって虫を退治して。(笑)掃除の時間以外にも、5分休みに「虫取ってきたで~」って言う子どももいましたね。

収穫した野菜は調理実習へ。野菜くずは再びキエーロへ投入!

協同作業の甲斐もあって、10月以降、無事に野菜を収穫。収穫した野菜は5・6年生の調理実習で使われました。すべてのクラスを賄えるほどの量は収穫できなかったため市販の野菜を追加しましたが、市販の野菜と比較しても遜色ない出来で「美味しい!」と大好評。調理実習で出た野菜くずは、再びキエーロへ投入します。なんと今回の調理実習で出た生ごみは“ゼロ”。竹澤先生によると、ごみを出す仕事を減らせるという点で、先生にもメリットがあったと言います。
[平見先生]
キエーロの土で育てた野菜は市販の土と比べて、収穫量でも差が出たように感じます。市販の土は小さいサイズが1回収穫できる程度だったのが、キエーロの土で育てた野菜はサイズが大きく、さらに脇芽も出て2回も収穫できたんです。

こうべキエーロに取り組む児童に変化。「生ごみはキエーロへ」という発想が自然とできるようになりました!

給食の野菜くずを埋めて生ごみを減らし、できた土で野菜を育てる。児童たちはキエーロで「食の循環」や「持続可能性」を身近に体験することができたのではないでしょうか。教員から見て、児童にどんな変化があったかを伺いました。
[竹澤先生]
あるとき、給食で残ったみかんの皮を見て「先生、みかんの皮をキエーロに入れたらどうかな?」と聞いてきたことがあります。子どもたちが、生ごみを見た時に「キエーロで分解できるかも」と発想するようになったことは、大きな変化だと思います。
[平見先生]
草抜きと虫の退治を担当した子どもたちは、社会の授業で農業を学んでいるときに「農家の人の気持ちが分かる」って言っていました。虫が苦手で、最初は叫びながら触っていた子どもたちも、慣れてくると大きい虫を見ても驚かなくなっていて、苦手意識が克服できたのかもしれません。

教員も無理なく楽しく取り組める。児童と一緒に作り上げる感覚がありました。

子どもたちと一緒に1年間に渡るキエーロ活動をやり遂げた竹澤先生と平見先生。最後に1年間を振り返っていただきました。
[竹澤先生]
すごく楽しかったなというのが率直な感想です。キエーロの前を通るたびに、気になって覗いていましたが、子どもたちは無理なく取り組めていました。土って、触っていると癒されるのでしょうね。当初はキエーロの土で野菜を作って調理実習まで行うのは「我ながら大きく出たな」と思っていたのですが、自分が思い描いていた食の循環サイクルが無事に実現できて達成感がありました。
[平見先生]
私も1年通して楽しかったですし、最初は栽培委員会としての関わりだった取り組みが、担任の4年生まで巻き込めたのが結果的にはとてもよかったと思います。みんなで一緒に育てている、作り上げている感じがすごく出たと思います。「4年生が草抜きしてくれたから育ったんやな」とか、「栽培委員会の子が水まきしてくれてたんやな」ということに気づけて、他の学年と野菜作りを通して繋がれたのはよかったです。子どもたちとはいつも「芽出とったで!」「ほんまに?」と野菜の成長の話をしていて、会話の種類も増えましたね。

小学校でのこうべキエーロの取り組みは、未来へとつながっていく可能性があります。

小学校でのこうべキエーロの取り組みは、家庭でキエーロを始めるきっかけにもなり、キエーロの土で育てた野菜を給食に使うことで「地産地消」を学んだり、子どもたちが食の未来のことを考えるきっかけになるなど、さまざまな可能性を持っています。

ぜひみなさんも、子どもの自主性を育みながら「食の循環」を学べるこうべキエーロを、家庭で挑戦してみませんか?

関連website

神戸市立小束山小学校 https://www.yg.kobe-wu.ac.jp/jc/

令和7年度 こうべキエーロ実施予定小学校(50音順)

神戸市立井吹西小学校(西区)
神戸市立井吹東小学校(西区)
神戸市立樫野台小学校(西区)
神戸市立小束山小学校(垂水区)
神戸市立竹の台小学校(西区)
神戸市立玉津第一小学校(西区)
神戸市立中央小学校(中央区)
神戸市立千代が丘小学校(垂水区)
神戸市立平野小学校(西区)