
~こうべキエーロ レポート~
幼稚園の先生や栄養士を目指す学生たちによる「キエーロかるた」。
子どもたちが将来、食や環境に関心を持てるような土台を作りたい。
神戸女子短期大学 多留菜々花さん(幼児教育学科2年生) 棚倉千佳さん(食物栄養学科2年生)
キエーロはごみの削減を実現するとともに、生きものの循環を身近に体感することができます。さらに、子どもたちの「食育」にもつながります。神戸女子短期大学では、幼稚園教諭や保育士、栄養士を目指す学生の皆さんが、文字が読めない子どもたちにもキエーロを楽しく学んでもらえるように「かるた」を制作しました。食育という視点でキエーロはどんな可能性を持っているのか、活動を通して学生さんたちはどんな想いを抱いたのか。キエーロかるたに携わった幼児教育学科の多留さんと食物栄養学科の棚倉さんにお話をお聞きしました。
食育を目的に制作。かるた遊びを通してキエーロに関心を持ってほしい。
神戸女子短期大学の幼児教育学科では、2年生の前期に「食生活基礎技術演習」という授業があります。毎年食育に関する演習を行っており、今年度の授業では「食育かるた」の制作がテーマでした。講義の中でキエーロについて学んだことがきっかけで、食育かるたの題材にキエーロを加えることに。1班4~5人の4班がそれぞれ読み札と絵札を作成しました。「食育」といえば「残さず食べよう」「好き嫌いなく食べよう」といった言葉が思い浮かびますが、今回のかるたはキエーロのほか、ごみの分別やリサイクルなど幅広くカバーしています。学生の皆さんは、ごみの減量につながるキエーロを学び、食育には「ごみ」「リサイクル」「SDGs」も関わると気づいたのだそう。例えば「らくだよ キエーロ いれるだけ」「にんにんにん きみのにんむは リサイクル」など、子どもが楽しく食育に触れられるようにと考え、分かりやすい文章や絵を心がけて作られています。制作したかるたは幼稚園や保育園に届けられ、実際に教育現場で使われています。目に見えない微生物の力で生ごみを分解するというキエーロの仕組みを子どもに伝えるのは難しくなかったかと質問すると、多留さんはかるたでキエーロを学ぶ意義を教えてくれました。
[多留さん]
キエーロを“勉強”として教えても子どもたちは興味を持ちにくいと思っていて。まずはかるたのような身近な遊びの中で触れて、「キエーロっていうのがあるんや」「土に入れたらごみが消えるの?」と知ることが大事かなと。遊びで関心を持ったうえで、実際にキエーロに取り組むようにすれば、子どもも「やってみたい」となるだろし、「土に何を入れたら消えるのかな」といった探究心につながるのではないかと思います。
かるたは環境イベントで大盛況。子どもから大人までみんなで楽しめた。
食物栄養学科2年生の棚倉さんは、2024年10月に長田区のふたば学舎で行われた「こうべ環境博覧会 かんぱく2024」に出展者として参加し、幼児教育学科の多留さんたちが作ったキエーロかるたを参加者に紹介する役割を担いました。ブースを訪れた参加者にかるたで遊んでもらったのだそう。子どもはもちろん、大学生や大人もかるたを楽しんだようです。
[棚倉さん]
「お兄ちゃんに負けたくない!」「妹に負けたくない!」と競う兄妹もいて、皆さん一生懸命になって遊んでくれました。字の理解がまだ難しい未就学の子どもでも、絵を見て札を取れていたので、文章や絵がうまく作られていてすごいなと思いました。
[多留さん]
かるたで遊んだときはキエーロやごみに全く興味がなかったとしても、分かる年齢になったとき、「幼稚園で遊んだかるたの内容がこれなんや!」と記憶がつながってくれたらうれしいです。
ごみの削減に、まずは自分自身が実践しようと思った。
二人は、キエーロかるたを通して、気持ちや行動にどんな変化があったのでしょうか。
[棚倉さん]
調理実習では、食材の捨てる割合をできるだけ減らすために「廃棄率」を計算します。例えば、へたがついている野菜なら、へたの周りの食べられる部分をできるだけ捨てないように切り方を工夫します。こうやって気を付けていても、へたや皮などがどうしても生ごみとして出てしまいます。環境のためにも、キエーロをやってみたいです。
[多留さん]
キエーロについて学んだ講義の中で、「てまえどり」という言葉を知りました。これまで買い物では、何も意識せずに手に取りやすい場所から商品を取っていたのですが、「てまえどり」を知ってからは、賞味期限を見て手前から取るように心がけるようになりました。
自然にふれる経験や食事を楽しむ経験をしてほしい。
子どもたちの将来を考えた教育にチャレンジしたい。
二人は今年の春に就職し、多留さんは幼稚園教諭、棚倉さんは認定子ども園の栄養士として働き始めるのだそう。キエーロや環境問題に関連して、仕事でやってみたいことがあるか尋ねました。
[多留さん]
未就学の子どもに具体的な環境問題を教えるのは難しいのですが、環境問題を今後考えていかないといけない世代なので、大きくなってから関心を持てる土台を作っておきたいなと思います。例えば、画用紙を使って制作をするときに、画用紙の一部だけを使って残りを捨ててしまう子がいたら、そのままにせずに「まだ使えるよね」と伝えていきたいです。他にもヨーグルトのカップなどを再利用した制作もできたらなと。自然の中で遊ぶ経験や、子どもが将来自然や生物を守っていきたいと思える経験をたくさん作りたいと思います。
[棚倉さん]
研修で子どもたちの食事の時間を見学したとき、いざ子どもたちに声をかけるとき何と言えばいいのか分からなくなって。「頑張って食べてえらいね」って、本当に言っていいことなのか?と不安になりました。子どもの頃に見たことや聞いたことって、大人になった今もすごく残るので、むやみに言えないなと。言葉を直接的に伝えるのではなくて、遊びや日常の中で間接的に学んでいったほうが、食事の時間を好きになってくれるんじゃないかと思うんです。先輩の先生から学んだり、自分で知識をつけたりして試行錯誤して、さまざまな場面で食育をしていきたいです。キエーロなら、「私たちも食べ物も同じ生き物で、循環しているんだ」と子どもたちに伝えられるかもしれません。
幼児教育と栄養のプロが連携すれば、子どもたちに正しい知識を分かりやすく伝えられる。
幼児教育の現場では今、教員や栄養士、看護師など他分野のプロによる「多職種連携」の重要性が高まっています。多留さんは、子どもたちに食育をするときにも多職種連携が必要だと気づいたと言います。
[多留さん]
栄養士が子どもに栄養や微生物について教えようとするとき、伝え方が難しい。一方で保育士や幼稚園教諭が、子どもが主体的に食べるようになってほしいと願いを込めて作った遊びでも、情報が曖昧だったり違っていたりする。そういうとき、連携してそれぞれのプロの部分をかけあわせて、正しい知識を分かりやすく子どもに教えられたらいいんじゃないかと思います。
神戸女子短期大学では今後、キエーロを学生たちが実践する機会を作る予定なのだそう。子どもに教える前に、まずは自分自身が取り組み、驚きや発見を得る体験が必要だと考えているためです。
今回の取材を通してキエーロが、子どもたちにとっては環境や食への興味を持つきっかけになり、学生にとっては学びの機会として、教育に役立つツールになる可能性を感じました。
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神戸女子短期大学 https://www.yg.kobe-wu.ac.jp/jc/